第6話:敵じゃない、ただ——見ていただけ
いよいよ翼と澪が正面から向き合う回です。
敵か味方か、まだ曖昧な関係の中でふたりの距離が静かに動き始めます。
放課後、昇降口で靴を履き替えていた翼の背後に、気配が立った。
「……神谷くん、ちょっといい?」
振り返ると、そこには御影 澪。表情は相変わらず無表情に近いが、目はまっすぐだった。
「なんだよ……?」
翼の声に、ほんのわずか警戒がにじむ。
「屋上、空いてるでしょ。話したいことがあるの」
———
誰もいない屋上。風が制服の裾を揺らす中、ふたりは数メートルの距離を保って立っていた。
「単刀直入に言うね」
澪は翼の目を見て言った。
「あなた、自分が普通じゃないって、自覚……あるでしょ?」
その言葉に、翼の心臓が跳ねる。
「……何言ってんだ。俺は、ただの高校生だけど」
「そう。じゃあ、どうして……壊れた扇風機に触れて、笑ってたの?扇風機はどうしたの?」
「……見てたのか」
澪はうなずく。
「ここ数日、あなたの“偏差”が強くなってる。周囲に影響が出始めてるの。私は、そういう“変化”を感じ取れる」
「お前……いったい何者なんだよ」
「それは、今は言えない。でも、一つだけ言える」
彼女は一歩、翼に近づいた。
「私は、あなたの敵じゃない。ただ——見ていただけ」
風がふたりの間を通り抜ける。翼は、逃げようと思えば逃げられる距離にいる。けれど、動けなかった。
「なんで……黙ってた?」
「観測者として見ていた。でも……それだけじゃ済ませられなくなった」
澪の声に、わずかに感情が混じっていた。
「危ういの。あなたの力も、あなた自身も」
翼はゆっくりと息を吐いた。
「……なんか、お前の言ってること、正直よくわかんない。でも……嘘はついてない気がする」
ふたりの距離が、ほんの少しだけ縮まった気がした。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
今回はついに、翼と澪が初めて“正面から向き合う”回でした。
次回からはふたりの関係が少しずつ変化しながら、物語はより深い領域に踏み込んでいきます。