第5話:観測対象として、彼は危うすぎる
今回はヒロイン・御影 澪の視点でお届けします。
彼女の異能〈価値の偏差検知〉と、主人公・翼への興味と警戒が静かに明かされていきます。
「また、偏差が跳ねた」
御影 澪は図書室の窓から、グラウンドを歩く神谷 翼の背中を静かに見つめていた。
彼の周囲に揺らぐ“波”。それは、他人には見えない。
けれど、澪にははっきりとわかる。
——あれは、異能の波だ。
澪の異能〈価値の偏差検知(Value Pulse)〉は、人やモノが“通常の価値変動”から逸脱した時に生じる“偏差”を知覚する能力。
金銭的価値、情報、社会的評価、そして――未来の可能性。
神谷 翼。彼の“偏差”は、ここ数日間で急激に膨らんでいる。
「最初は、たまたまだと思った」
捨てられたテレビ、壊れた扇風機、誰にも見向きもされないプリンター。
彼はそれらに触れ、何かを得ていた。偏差はそのたびに跳ね、そしてすぐに収束する。
何かはわからない。ただ…
——それは、“価値の変換”が行われた証。
「まさか、そんな異能……」
そんな力があるとは、澪ですら想定していなかった。だが、観測された揺らぎは確かだった。
彼は、確実に“現実の価値”を操っている。
その力は、あまりにも危うい。
もし自覚がないまま使い続ければ、やがて彼自身が壊れる。
「報告するべき……か」
監視局の一員としての義務。偏差の連続検出があれば、即座に申請するのが正規手続き。
だが——澪は、まだ報告していない。
「……なぜ、私は迷っている?」
彼の目は、どこかで澪と似ていた。
誰にも話せない“秘密”を抱えて、日常に紛れようとしている目。
「もう少しだけ、見ていたい」
監視でも、調査でもなく、“知りたい”という感情が、心の奥に芽生え始めていた。
——澪は、窓から目を逸らし、静かに図書室を後にした。
ここまで読んでいただきありがとうございました!
今回は澪視点で、主人公・翼の異能がどのように映っていたのかを描きました。
次回はいよいよ、ふたりが“言葉を交わす”最初の接触に踏み込んでいきます。