第4話:放課後、変わらない時間の中で
今回は澪の視点に入る前に、もう少しだけ“日常”の中で揺れる翼の心情を描きます。
風間との関係や、異能が日常に溶けていくリアルな描写をお楽しみください。
放課後の教室。日は傾き始めていて、窓から射し込む夕日が机の角を照らしていた。
「なあ神谷。今日のヴァルクロ、MVP沸くタイミングだから、ちょっと早く帰ってログインしね?」
「お、マジ? 昨日逃したんだよな、あれ」
風間と翼は並んで廊下を歩きながら、スマホをいじっていた。
話題はスマホMMORPG。ここ最近、風間との会話はほとんどこのゲームの話だった。
「お前、最近やけに装備豪華じゃね?」
「ガチャ運が来てるだけだって」
軽くごまかす。実際には、ガチャも何も、翼は既に“金の力”で装備を揃えていた。言えるわけがない。
———
帰り道、コンビニ横のゴミ集積所に、古びた扇風機が置かれていた。
(……誰も見てないな)
風間が少し先を歩いているのを確認し、翼はサッと近寄って触れた。
ジン。
ほんの一瞬で、右手に熱が走る。そして、3,500円が現れた。
(やっぱ……クールタイム、短くなってる)
以前は数時間に1回。最近は1〜2時間。
今は、朝触れたばかりのはずなのに、もう反応した。
現金をポケットにねじ込みながら、翼は小さく息を吐いた。
「金が出る。それだけなら、ただの便利スキルで済むんだけどな」
———
その日の夜。風間からギルドチャットが飛んでくる。
『明日のMVP、一緒に狩ろうぜ!装備貸すから!』
翼はスマホを見つめながら、ふっと笑った。
(“貸す”って感覚、俺にはもう無くなったのかもな)
今の翼には、必要な装備は全部“買える”。異能で得た金で、すべて揃う。
でも、その事実が少しだけ寂しかった。
———
その頃、図書室の奥。カーテンの隙間から、静かに翼を見つめる視線があった。
御影 澪。彼女は黙ってノートを閉じると、呟いた。
「また……偏差が、跳ねた」
そして、その視線の先にあった少年の背中が、確かに揺れて見えた。
お読みいただきありがとうございました!
今回は、翼の日常が静かに“異能”に蝕まれていく感覚と、風間との距離感を描いてみました。
次回は澪の視点に移り、観測者としての彼女が本格的に動き始めます。お楽しみに!