第1話:その金、誰のものでもないけど。
はじめまして、初投稿になります。
異能と日常、そして“お金”をテーマにした現代ファンタジーを書いてみました。
まだまだ拙いところもあるかと思いますが、あたたかく見守っていただけると嬉しいです。
異能を得てから数日――
放課後のコンビニ。炭酸の効いたジュースの缶を片手に、神谷 翼はレジを通った。
「合計で1,860円になりまーす」
財布からスッと5千円札を出す。小銭を気にしないのは、最近の“癖”だ。
「……あ、袋ください」
コンビニの袋に詰められたのは、お菓子や新作雑誌、普段は手を出さない高めのグミ、それにずっと欲しかったゲーミングイヤホン。
誰が見ても“高校生の買い物じゃない”とは言わないが、“少し贅沢”だとは思うだろう。
(前までだったら、カップ麺だけでギリギリだったのにな……)
帰り道、風に揺れるビニール袋の音を聞きながら、翼は思い出していた。
数日前、道端に打ち捨てられていた壊れたテレビに何気なく触れたあの瞬間。
手のひらが熱くなって、次の瞬間には現金。8万円。現実味のない“奇跡”だった。
何度も目をこすった。何度も確かめた。だけど、間違いなく――金が出ていた。
「……あれ以来、壊れたもんとか、捨てられた家電が宝に見えるって、だいぶ終わってるよな」
気づけば、家の近くに放置された壊れたスクーター、拾われなかった自販機、使われていない業務用冷蔵庫……
目につくものすべてに“価格”が浮かぶようになっていた。
そして今日も、通学路の脇に放置されていた廃棄プリンターにそっと触れた。
「3万……地味にデカいな」
現金がポケットに滑り込む瞬間は、まだ慣れないけれど、驚きは薄れてきた。
これが、翼の異能〈リバリュー〉。壊れたモノ、捨てられたモノ――すでに“死んだ価値”を持つ物に触れると、
当時の販売価格分の現金が現れる。ただし、触れた物は消え
力を使うと一定時間の“クールタイム”が必要になる。
バレずに、目立たず、ちょっとだけ。翼は“こっそり稼ぐ”日々を繰り返していた。
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その夜。部屋のベッドに寝転び、さっきのコンビニ袋を見つめる。
「なんか……こんなんでいいのか、俺」
誰にも話せない。家族にも、風間にも、もちろんクラスの誰にも。
でも、もう元の生活には戻れないと思った。
いまや財布には、現金が常に5万円以上。バイト禁止の高校で、親に頼らずスマホ代も払える。
(“稼げる力”があるだけで、こんなに世界が変わるのか)
そのはずなのに、胸の奥に小さな違和感がずっと残っていた。
“この金、本当に俺のもんか?”
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翌朝、いつものコンビニに寄る。
「おう、また来たな。最近よく見るな、兄ちゃん」
レジの店員が軽く笑いかける。翼は曖昧に笑って会釈する。
(こうして何気なく、いつも通りに……でも、その“いつも”が少しずつ変わってきてる)
コンビニを出た瞬間、背筋にわずかな“視線”を感じた。振り向くが、誰もいない。
「……気のせいか」
しかし、翼はまだ知らない。
すでに彼の背後では、“その力”に目をつけた者たちが、静かに動き始めていたことを。
そして、この散財こそが――異能という日常の“序章”にすぎなかったということを。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
主人公はまだ力に戸惑っている段階ですが、これから少しずつ物語が動き始めていきます。
初めての連載挑戦ということもあり、緊張しながら書いていますが、読者の皆さんの反応が何より励みになります。
次回も読んでいただけたら嬉しいです!