第0話:はじめて、金が手のひらに落ちた日
はじめまして、初投稿になります。
異能と日常、そして“お金”をテーマにした現代ファンタジーを書いてみました。
まだまだ拙いところもあるかと思いますが、あたたかく見守っていただけると嬉しいです。
物語の原点。翼が異能〈リバリュー〉に目覚めた、最初の“違和感”と出会いを描きます。
ここから、すべてが始まった——。
夕方、帰り道の脇道。空き地のフェンス沿いに、廃品が積まれていた。
神谷 翼は、そこで足を止めた。
「……まだ、あるな」
雨ざらしのブラウン管テレビ。時代遅れの大きな箱型。誰も見向きもしないはずのそれに、なぜか目が引き寄せられた。
(なんで、こんなのが気になるんだろ)
無意識に手を伸ばす。触れた瞬間、右手がジンと熱を持った。
「……うわっ!」
思わず手を離す。けれど、すでに遅かった。
地面のテレビが消え、バサッと落ちたのは——万札の束だった。
「え、ええっ……!?」
目の前に、現実感のない金が落ちている。数えるのも怖かったが、ざっと見て8万円ほど。
「は……? どっかにカメラとか……ドッキリ……?」
周囲を見回す。誰もいない。足音も気配もない。空き地は静まり返っていた。
そのとき、翼の右手にまだかすかな熱が残っていることに気づいた。
(今の……なんだ?)
それが、異能〈リバリュー〉との出会いだった。
———
その夜。
布団の中、翼は押し入れの奥に隠した札束を見つめていた。
(夢じゃない。……本当に、金が出てきた)
現金は、何の証明もない。だけど、手触りも重みも、偽物とは思えない。
翌日、駅前の古い電子レンジに触れてみた。
ジン。
2万4千円。再現性はあった。怖さよりも興奮が勝っていた。
そこから、日々少しずつ金を手に入れるようになった。
廃棄自販機、壊れたエアコン、放置された電動バイク——
「まるでゲームの裏技だな……」
———
2週間後。
金は、10万円を超えていた。
家には隠し場所がなくなってきていた。押し入れ、机の引き出し、空き箱の中。
(……まずい。これ、親に見つかったらやばい)
そしてある夜、翼はスマホで検索を始めた。
「現金 家に保管 バレる」
「大金 高校生 銀行口座」
「口座 急に増えたら 通報」
調べれば調べるほど、不安が増していく。
(預けたい。でも、どこまでなら“怪しまれない”んだ?)
高校生が急に数十万円を持つということ。
その金に“証明”がないということ。
そして、何かあったとき——誰にも頼れないということ。
「……金があるって、安心じゃなくて、怖いんだな」
初めて思った。
この異能は、ただのチートでも夢の力でもない。
ちゃんと“現実”を引き連れてやってくる。
翼は決めた。少しずつ預ける。目立たないように、少額から。
慎重に。誰にも気づかれないように。
——そうして彼は、“力を使う覚悟”をひとつ、決めた。
このあと、翼は日常に力を溶け込ませていく――
ここまで読んでいただきありがとうございます!
今回は異能〈リバリュー〉に目覚めた“最初の出会い”を描きました。
力を持つということのリアルな不安や葛藤も、今後の物語でじっくり掘っていきます。
ちなみに高校生からみて3万円超えたらもう札束って事でいいですよね。一般的に札束って100万のイメージですが、彼は高校生8万でも札束なんです。読みやすさ重視で数字表記なのですが、漢字の方がかっこいいですよね。変更入れるかもです。