表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/134

9、夕暮れに染まる音色

 父や村人たちへの説明はなんとかできた。はからずも、まあいいタイミングでもあった。

 その後母にも間接的に説明ができ、俺は一応これで肩の荷を下ろすことにした。

 しかし、いくつか疑問が残った。

 ひとつは「うた」がなぜさまざまな影響を及ぼすのか。

 次に、ミトのうたに理由があるのか。二人だから、なのか。

 もうひとつ、神様と説明したとき、村人の反応が少し微妙だったこと。


 こんなところか。まあ、これらは考えても仕方ないことだ。とりあえず「そうなんだろう」としておこう。実際に試しながら、確証を得ていければいい。


「お兄ちゃん……おうた……歌っちゃいけないの?」

 すがるように聞いてくるミト。

「そんなことないよ。ゆうべ父も言ってたよ。まずはちょっとずつやればいいんだよ」

 範囲と効果を見極めながら、少しずつやっていくのだぞ、という父の言葉だった。

 ミトには少しわかりづらいと思ったので、砕いて説明をした。


 ミトがぱあっと笑顔になった。

 さて、他の歌を色々教えるべきか、どうするか。

「わたしは教えてもらったおうただけでもいいよ」

 そっかそっか。じゃあそれを完璧にマスターしていくとしよう。

 俺は……そうだな、フルートの練習でもして、ミトの歌に伴奏でもつけてみるか。


「おーい、カナデ~、ミト~」

 村人が声をかけてくる。

「ちょっと、おまえさんたちのうたを聞かせてくれねえかぁ。腰がいたくってよぉ」

「ミトちゃん、火傷しちゃったの。おうた、頼めるかしら?」

「カナデ、風邪ひいちまってよ、頼むぜ」


 ここのところ、こんな感じで頼まれることが多くなった。

 うーん、頼まれるのは悪い気はしないが、その度に作業が中断してしまう。

 これはなんとかしないといけない、と考えていたところに、父が提案してくれた。

 夕方の井戸端で歌を歌えばいいというのだ。

 なるほど、それはいい。そうすれば一気にカタがつくのではないかと俺も予想した。

 変化をなんとなくよく感じ取れるのが井戸端だったし。


 俺は「地球での経験」があるからまあ慣れているが、聴衆の面前で歌うことは、ミトはどうだろう。

 そのことを話したら少し恥ずかしがっていたが、割とノリノリだったので、やってみることにした。



 そして夕刻、

 俺とミトは、改まって「今から歌いますよ〜」と宣言するのもなんだか照れるので、皆が作業を終えて井戸に水を汲みにくる、一番人が集まるタイミングで『赤とんぼ』を歌った。


「ゆうや〜けこやけ〜のあかと〜ん〜ぼ〜」

「おお……」


 なんとも言えない雰囲気が、その場をおおった。

 涙するものもひとりふたりではなく、感情を揺さぶられるような想いがあったのだろう。

 風邪や火傷に効いているのかはちょっとよくわからないが、みなそれぞれ笑顔で、温かな表情を浮かべた。

 初めてのちょっとしたライブに、俺たちもほっとして、村人たちから感謝された。


 単純に嬉しかった。

 しかし、責任もあるよな、とも思った。

 これからのことを考えてみた。

 これをずっと続けていくのか。いけるのか。

 ミトと俺は、いったいなんなのか。

 影響は?

 他の曲をやるべき?


 でも、なんとなく思うことがある。

 こうやって感謝され、頼りにされるのは、とても嬉しかった。

 地球の頃にはとても感じなかった嬉しさがあった。  

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ