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84、不穏

 シャロウィン山麓へと戻ってきた俺たち一行。噴煙の原因を探るべく、議論を交わしていた。


「見たところ、煙が上がってるだけのように見えますね」

「うむ。だが、警戒はしなくてはいけないな」

「まさかいきなりボカーンってならないよね?」 


 まあ、それを一番警戒しなくちゃならないけど──もしそうなっても、俺たちに何かできるかと言ったら何も無く、自然の前に人間は無力である。


「地震も今はなさそうですね。ゆうべは何か感じましたか?」

「いや、私は感じなかったぞ。一度も起きなかった」

「サクヤちゃんはテコでも起きないから……」


 軍を率いる者がそんなんで大丈夫?


「ま、まあ、皆さんも感じなかったと言ってますね」


 さて、あの噴煙の場所まで現地調査することになるのだが──


「全員で行く必要はあるまい」


 とサクヤ。今のこの編隊は、元から二手に分かれる予定ではあった。


「そうですね。予定していた部隊ごとに別れて、俺たちは先に向かいましょう」

「人員は十分にある。お前たち、くれぐれも命だけは大事にしてくれ」


「はっ!」


 兵士たちはサクヤに敬礼し、精鋭の者たちはシャロウィン山の調査へ。俺たちは次の予定地、スーナ村へと駒を進めた。


 道中、俺は少し考えていた。

 ゆうべのキャンプファイヤーが、シャロウィン山の変化に何か影響があったのか。そう考えれば自然だが、今までの経験から言って、もうちょっと反応が強く出ていてもいいような気がする。


「まあ、現地調査隊が後で報告してくれるだろう。何もない、ってことはないと思うぞ」


 サクヤが心の内を読んだのか、そう言ってくる。


「そうですね。今考えていても仕方ないですね」


 そうこう話しているうちに、スーナ村へと俺たちは辿り着いた。


「みんな、ただいま〜」

「おお〜、ミトだべ! カナデもおる!」

「まぁ〜、ふたりとも無事でよかったよ」

「立派になったのう」

「なんだか大人になっちまったべ」

「みんな、ただいま。元気だった?」


 ほんの少しだけ態度の違う村人たち。それにしてもこの村は、相変わらずあまり変わらない。


「カナデ〜、また祭りするべ」

「あ、いやいや、今回はのんびりできないんだよ」

「なんだべ、どうした?」


「皆さんにお話しします。集会所へ行きましょう」


 俺たちは村人全員を集め、集会所へと移動した。


「というわけで、地震の原因を探りに来ました」

「なるほど。んだが、おれらは特に困ってねえべ」

「え? この村からハトの知らせがあったと聞いてるよ?」


 ミトも困惑している。


「いんや? おらたちはそんなハトは飛ばしてねえべよ」

「んだんだ、地震? も感じてねえべ」

「ベザさんなら何か知ってるかしらね?」


 村人の様子が少しおかしい。


「そういえば、父と母は今どこにいるんですか?」

「ベザとアメなら、ちょっと前に出かけちまったよ? ノッサでねえの?」


 おかしい。あの父ならともかく、母まで出かけてるのは不自然だ。


「わかりました。今回は調査ですので、早めに済ませます。皆さんにご迷惑はおかけしませんので」


 村人たちも腕を組み、お互いに顔を突き合わせて煮え切らない感じだった。


 その後、俺たちは裏山の丘に来てみた。


「ここです」

「ああ、以前カナデくんから報告を受けた場所だな。確かに例の“文字”だ」

「本当だ〜、こんなの気づかなかったね」


 俺とミトでよく木の実採取したり、俺が楽器を作っていた場所だからか、ミトも不思議がっていた。しかもほんの僅かだが、以前よりもせり上がっている。


「ここから話すことはあくまで推測ですが、聞いてもらえますか?」


 サクヤとミト、護衛兵たちもハッとした顔になり、背筋を伸ばして一同が頷いた。


「まずこの“丘”は、間違いなく例の“遺跡”だと思います。ここから何かをすれば、この丘がせり上がって姿を現すと思います」


 皆、静かに頷く。


「なぜまだこのくらいしか出ていないのかは一旦保留します。逆になぜこのちょっと“頭”が出ているのか──」


 頭かどうかはまだわからないが。


「この遺跡は、何かのきっかけで出現するものと仮説が立っています。それは俺の演奏がいまのところ有力ですが、そのほかにも理由はあると思っています」


「それは、俺が音楽を広め、皆ですこしずつ歌ったり、ピッコの演奏をすることによって、偶然出てしまったのかもしれません」


「この世界はいま、俺の音楽によって秩序が変わろうとしています。そうなってしまったことに、罪悪感はありますが……」


 そこまで言って、サクヤは首を振った。「そんなことはないぞ」ということを言いたいのだろう。

 俺はそれを見届けて頷き、話を続ける。


「今これを見過ごすわけにもいかないですが、ここでただ待つわけにもいきません。俺の言ったことがまだ仮説である以上はです。でももしそれが定説ならば、ここを放置するわけにもいかない」


「スーナ村は良くも悪くも、この“程度”の発展で収まっています。それはなぜなのかは──一旦置いときますが、これ以上この遺跡がせり上がって魔物が出ることもないでしょう」


「ですが、見張りはつけましょう。ここにサクヤ部隊の精鋭の皆さんで見張ってもらって、私たちはまた王都に帰還しましょう」


 皆が納得し、部隊を再編成することに同意してくれた。


 その後、俺とミトとサクヤで王都へと戻ることになる。

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