8、説明のむずかしさ
さて、ここで村人への説明がてら、これまで起こったことをまとめてみよう。
サカナの異変、畑の成長、木の実の大きさと家畜への効果、そしてわずかだが村人たちの健康状態。
少しずつ、村が変化していることに村人たちも気づいていた。
まあ、フルートとタヌーについては黙っておこう……
「カナデ、これはオメエが何かやってることだな?」
「カナデちゃん? ミトちゃんとなにかしてるの?」
「ミトも知ってんだべ?」
まくしたてられ、俺たちはたじろいでしまった。
「ま、待ってください。ちょっと自分でも整理してから話しますから」
俺は皆を制止するように両手を突き出した。このままでは収まらない。
ここは一旦持ち帰って父に相談してみようか。この機会に父母と心を通わせるいい時期かもしれない。
「みなさん、一度落ち着いてもらっていいですか? 俺自身、驚いてることでもあるんです」
「そんなこと言ってオメエ、なにか隠してるんだべ」
「そうだそうだ、カナデ、おまえ、こないだ倒れてから人が変わっちまったみてえによう」
「ミトちゃん、カナデちゃんになにかあったんでしょ? 話してごらん?」
もうみんな、俺のせいだと決めつけているようだ。このままではミトも可哀想……って、あれ? 意外と落ち着いてる? 冷や汗をたらしながらも、アハハと笑っている。なかなか肝が据わってるな。
「皆さん、落ち着いてください」
低い声で、それでいて割と朗らかな雰囲気をもつその声が響いた。
父がこの騒動を見てきてくれたのだ。
「私も、このここ何日かの変化には少し変な感じはしてました。それがなんなのかはわからなかったのですが。どうかな?カナデ」
なんだか知らないが、父の声と言葉を聞いていると、不思議と心が落ち着いた。
それで、俺は話す決心がついた。
「わかりました。いま父が話したこと、俺が感じたこと、それを皆さんにお話しします」
そうして、俺はここ数日、ミトと一緒に釣りをしながら『うた』を歌い、畑を耕しながらリズミカルな歌を、また新しく覚えた歌を歌いながら採った木の実が家畜を健康にさせた――これらのことを丁寧に村人たちに説明した。
父は黙って、俺の目をじっと見つめながらその成り行きを見守った。
かくして、当然村人たちは理解できずにいた。
「信じられん……というか、なんだべ、その『うた』?」
「『うた』とはなんだい、カナデ」
「ミトちゃん、ミトちゃんもその『うた』をできるの?」
みんな、同音異口に、思い思いの言葉を出した。
「たとえばこんな感じです。ミト、いい?」
うん、とミト。
せえので『赤とんぼ』を歌った。
瞬間、みんなぱあっと笑顔になった。
この感じは、いつも井戸端で見ている感じだ。
一同は、はぁぁとため息をもらしている。
「みなさん、どうですか? 正直な感想を聞かせてください」
俺はみなに尋ねた。
「なんていうか、疲れが吹き飛んだな」
「んだ、背筋がピーンってする感じだな」
「あたし、なんか痛い歯が痛くなくなっちまったよ」
やはり予想してた通りだ。だが、これは一体根拠はなんだ。
俺とミトの『うた』が、いったい何なのだ。
「私も、みなさんと同じです。神様の御前で祈るときのような、新しい力が湧いてくるようです」
父が、割と大袈裟なことを言っている気がする。しかしその言葉が、皆への説得力になったようだ。
俺は、説明を付け加えるように言った。
「俺が倒れて気を失った数日の間に、神様が降りてこられたような感覚がありました。天恵といいますか、夢の中で神様が恵んでくださったように思います」
「そっか。そうなんだね」と父。
これは、ミトに説明した内容とほぼ同じだ。まあ、この設定で行こう。
しかし、父も理解が早いな。
「そっか……神様か……」
「ここの神様ってなんだべ……?」
「そういや、いたっけ……な?」
おや? ちょっと風向きが変わったぞ? 神様の存在は信じてなかったのか?
「みなさん、一旦、ここはこのような感じで納得していただけないでしょうか? 頭も追いつかないでしょうし」
父が、この場をまとめてくれた。こういう時は、年長者が役に立つ。ありがたい。
今日という長い一日が、幕を閉じた。