75、三つの部屋
「報告します! 奥に部屋らしきものがあります!」
三人の先遣隊からの報告は、いずれも同じ内容だった。もしここに魔物や敵対する何かが現れていたら、確実に詰んでいたな……。
彼らの報告をまとめると、以下の通りだった。
暫定的に部屋に番号をつけてある。
1、楽譜が書かれた石板
2、これまでの遺跡で見つかったものと同じ文字
3、謎の物体、文字の石板、そして楽譜の石板
「カナデくん、ひとつひとつ見てみようか」
「ええ、まずは楽譜を見てもよろしいですか?」
俺たちは、楽譜のある1番の部屋へと移動した。そして、そこで目にしたものに俺は驚愕した。
「どうした、カナデくん? 顔が青いぞ」
「え? ええ……ちょっと……ものすごく驚いています」
「おにいちゃん、これってもしかして」
「ああ……この間、俺がピアノで弾いた『月光』だ」
なんと、その石板に彫られていた楽譜は——
「ピアノ・ソナタ 第14番 嬰ハ短調 Op.27-2」
そう、地球では「月光ソナタ」として親しまれている、あの曲だった。
なぜ? どうしてこんな異世界に、この楽譜が存在している? 俺が習った『月光』の第一楽章とまったく同じ楽譜だ。
頭がクラクラしてきた。しかも、まだあと二つの部屋を調べなければならない。どうしてこんなことになっているんだ……?
「大丈夫? おにいちゃん」
ミトは相当不安なのだろう。じっと俺の顔を見つめ、心配そうに体を寄せてくる。
「ああ……ごめん……大丈夫だよ。ちょっと水を飲もうかな」
俺はミトから水筒を受け取り、一気に飲み干した。
「カナデくん、あとは私たちで写生をして、楽譜や文字を正確に転写していくが……」
俺は手のひらを胸の前に出し、サクヤを制止した。
「大丈夫です。これくらいでへばっていられません。それに、多分俺にしか分からないことが、ここにはあるかもしれません」
「わかった。無理はしないでくれ」
俺は改めて、月光が書かれた石板をじっくりと観察した。だが、楽譜以外の文字や記号は何も書かれていない。
「ここはもう大丈夫です。一応、俺が思ったことを筆記してもらってもいいですか?」
先遣隊の一人に速記を頼み、今感じたことや考えたことをすべて記録してもらった。
次に、2番の部屋へ。
「……ここも、これまでの遺跡と同じ文字ですね。今は解読できませんが」
遺跡の文字の手がかりはいずれ探し出したいところだ。
そして、最後の3番の部屋。
そこにあったのは——またしても驚くべきものだった。
「……これも、びっくりです……この物体は……ヴァイオリンです」
「ほんとだ! 確かにヴァイオリンに見えるね。このおにいちゃんのとは、だいぶ形が違うけど……」
「これは、本当はこの部屋のものの方が、実際のヴァイオリンの形なんだ。ランダさんと一緒に試行錯誤して作ったものだから、まだこの形には近づいてないだけなんだよ」
俺が地球にいた頃、ピアノの傍ら弾いていたものと、まったく同じ形だ。
「……これは何を示唆しているのか……やはり、俺の思うことを書き留めておいてもらいます」
俺は大方の見当がついていた。だが、それについては後ほど、王や大臣たちと会議の場で議論することにしよう。
「では、写生も終わったようだな。ここから脱出しよう!」
あらかじめ仕掛けてもらったハシゴを慎重に登り、大広間へ。そしてそこから、さらに階段を上がって外界へと脱出した。
外ではスクやモノたちが待っていてくれていた。
エネルギーをほぼ使い切ったサクヤは、美味しそうにおむすびを頬張り、俺たちも軽く食事をとって、王宮へと帰還した。