74、最深部
「ただいま戻りました。報告します!」
階段を降りて行った偵察隊の五人が、全員無事に戻ってきた。怪我どころか、汚れや汗ひとつかいていない。
「どうであったか!」
「はっ! 我々が見たところ、何もありませんでした。ただ広間が広がっているだけでございます!」
「ご苦労であった」
サクヤが告げると、偵察隊の者たちは静かに下がった。
「では、行ってみようか、カナデくん」
「はい、確認してみましょう」
俺たちは先遣隊の後ろにつき、遺跡の大穴から続く階段へと足を踏み入れた。魔法の灯りを頼りに、ゆっくりと下っていく。
階段は思ったよりも長く続き、靴音がコーンコーンと響く。その音からしても、最深部まではかなりの深さがあるようだった。
そうして俺たちは、最下部のさらに奥へと歩みを進めた。先遣隊が広間の端へと分かれ、魔法の灯りを照らす。
「毒の空気などはないようですね」
「ああ、だがまだ油断は禁物だぞ」
俺とサクヤは慎重に周囲を見渡し、大広間の壁や柱を確認していく。
「サクヤさん、さっきの曲をもう一度演奏してみましょう」
「わかった。私はどうすればいい?」
「広間の中心に立っていてください。ミトが何かしら合図をするまでは、なるべくその場にとどまっていてください」
コクリと頷くサクヤ。
俺とミト、ピッコ隊で、遺跡の楽譜に書かれていた曲を再び演奏する。サクヤが変化したときと同じように。
サクヤを取り囲むように立ち位置を決め、ミトのタクトが振り下ろされると同時に演奏が始まった。
サクヤの体が少し宙に浮き、身を縮める。彼女の身体から放熱が始まり、炎を纏った。
演奏も終盤に近づき、サクヤの雄叫びが響き渡る。
「オオオオオオオオ」
その瞬間、ミトがタクトを振り上げる。
「サクヤちゃん!」
ミトが腕を振り下ろし、サクヤは身体を回転させる。
『ゴゴゴゴゴゴ……』
どこからか地鳴りが響く。と同時に、俺たちが立っている床が動き始めた。
「だ、大丈夫かな……」
ミトが不安そうに声を上げる。
「このまま様子を見よう。サクヤさん! 聞こえていたら、そのまま俺たちと一緒に降りてきてください!」
サクヤに声が届いたようで、宙に浮いていた彼女は俺たちの立っている床の動きに合わせて降りてきた。
そのまま轟音とともに、どこかへと床は到達した。
「ふぅ……なんとか助かったみたいだ。ミト、大丈夫?」
「うん。私は平気。ピッコ隊の人も無事みたいだね」
「サクヤさーん! 聞こえますかー?」
俺が叫ぶと、サクヤはふっと炎を払い、俺たちの床へ着地した。
「平気だぞ。なんとかなったみたいだな」
「ええ、それよりも……」
俺たちが乗っていた床の周囲に、三方へと続く回廊が現れていた。
「これは一体……何でしょうね」
「ひとまず調べてみよう。先遣隊!」
「はっ!」
サクヤの命令により、先遣隊が一つずつ回廊を調べ始める。
「報告します! 奥に部屋らしきものがあります!」