7、異変、止まらず
「カナデ、これはいったいどういうことだい?」
さすがの父も母も、問いたださずにはいられない。正直なところ、俺自身も説明が欲しいくらいだ。
「いや、これはたまたまというか……」
「この動物……いや、魔物だね。しばらくぶりに見たかもしれないな」
父が魔物を見下ろしながら言った。
あ、見たことあるんだ。それは好都合。
「お父さんはこの動物を見たことがあるの?」
ミトが興味津々に尋ねる。
「ああ、これはタヌーといって、それほど凶暴ではないんだけど、一応魔物だね。毒や痺れの心配はないよ」
やたら詳しく説明をする父。
「カナデ、この魔物を誰かに見られたかい?」
父が少し心配そうに尋ねる。
「いえ、誰にも見られてないと思います。なるべくひそひそと帰ってきたつもりなので……」
俺はまだ父母に対して、どことなくよそよそしい感じで話していた。ミトにすら、まだ完全に馴染めていない気がする。
「そうか……まあ、これはとりあえず村のみんなには黙っておこう。それでいいね?」
そう言われても、この世界の事情がまだよく分からない。ここは父に任せるしかない。
「はい」とだけ頷いた。
「お父さん、このタヌーって……食べられないの?」
ミトが少しおそるおそる聞く。
「大丈夫だよ。ちょっと臭いけど、なんとか食べられる」
「せっかくカナデが獲ってきたのだから、食べましょうか」
ニコニコと母が言った。
こうして、この世界に来て初めて、お肉を食べることになった。
翌朝
俺はミトと一緒に畑を見に行こうとすると──
「おいカナデ!オメエんとこの畑!どうなってんだべ!」
いつもの家畜を飼っている村人が駆け寄ってきた。
「お兄ちゃん!みてみて!」
ミトの小さな背が、いつもより小さく見えた。
「カナデ、オメエ何したんだ?」
村人が俺に詰め寄る。
「いや、何もしてないんだけど……」
俺もさすがに言葉に詰まった。
そこへ、後ろからさらに騒がしい声が響く。
「あんた!大変だよ!」
走ってきたのは、家畜を飼育している奥さんだ。
「なんだオメエ、どしたん?」
「はぁはぁ……牛が……牛がぁ!」
俺たち一行は牛舎へと駆けつけた。
「モ〜〜〜」
牛が増えていた。子供を産んでいたのだ。
なん……だと……?
ご主人と奥さんは絶句している。
「お兄ちゃん!これ見て!卵が……ひとつ、ふたつ、みっつ……10個もある!」
もう驚かないぞ。次は羊だな?
「羊の毛が!」
「カナデ、説明してもらおうか。こないだの木の実になに混ぜたんだべ?」
俺とミトは、この騒動を聞きつけた村人たちから尋問を受けることになったのだった。