表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/134

6、黒い影

 ミトが急に立ち上がったかと思うと、ふらっとよろめいた。

 目の焦点が合っていない。少し虚ろな様子だ。これはちょっとまずいかもしれない。


 笛を吹くのをやめ、ミトの腕を掴んで名前を呼ぶ。


「ミト、大丈夫か?」


「あれ…? いま、なにを?」


 一瞬の記憶が飛んでいるようだ。まだぼんやりしている。


「気分悪くないか?」 俺は軽く肩を揺らしてみた。


「う、うん、大丈夫だよ。でも、いま何があったの?」


 笛を少し鳴らしただけだったが、これのせいかどうかはまだわからない。

 だが、十中八九、笛が原因だろう。こんなことまだ早かったのかもしれない。


「今日は木の実を拾って、早めに帰ろうか。帰りながら歌を教えてあげるよ」


「そっか。わかった。うん、そうしよっか」


 ミトは足元を確認するようにしながら、慎重に丘を降りていった。


 昼過ぎ。

 ミトを家に帰らせた。今日は少し心配なので、大人しくしてもらうことにする。

 俺には確認したいことがあったのと、笛の調整をする必要があった。


 俺は、今朝二人で作業していた丘をさらに奥へと進んだ。


 この何日か、ミトに歌を教えながら一緒に歌っていて気づいたことがある。

 ミトは、音程やリズムを正確にとることができる。驚くほど上手だ。

 9歳にしては発音もいい気がする。センスがいい。

 もしかすると、生まれ持った才能なのかもしれない。


 そして、今朝作った出来損ないの笛。

 あの音の揺れや不安定なピッチが、ミトの体調に影響を与えてしまった可能性がある。

 それが原因で、さっきのようにふらついたのかもしれない。


 となると、今まで村で起きた変化も、ただの「歌の力」だけじゃなく、正確な音程が影響している可能性がある。


 そう思いたった俺は、今度は竹林へと向かった。

 ちょうどいい太さの竹を選び、鉄の棒を使って細工を始める。

 今度は縦笛ではなく、横笛──つまり、フルートのような形にしてみることにした。


 何時間かかけて音程をできるだけ正確に調整し、試しに吹いてみる。


 フルートは未経験だったが、口の形によって微妙に音が揺れる。

 これは慣れるしかないな……。


「よし……これでいいか」


 思わず独り言をつぶやく。

 初めてにしては、なかなかの出来じゃないか?


 試奏してみよう。


「ぴ〜〜ひゃらら〜〜〜♪」


 まぁなんというか……日本の夏祭りで聞くような、メロディがあるようでないような即興の旋律だ。


 ──その時だった。


「ガササ……」

「ガサササササ……」


「ん?」


 茂みが揺れた。風か? いや……。


「ガササササ…ギャアア!!!」


「うわわわあああ!!!」


 突然、茂みの奥から動物が飛び出してきた。


 えっ? こんな動物、この辺にいたか?


 俺は目を疑った。

 たぬきのような黒い毛皮の動物が3匹。


 どどどどうしよう??


 俺は咄嗟に持っていた笛……ではなく、鉄の棒を握りしめた。


「ええい!! ままよ!!」


 初めて口にする言葉とともに、一閃。


 ──ドスッ!!ドスドスッ!!!!


「…………」


「……いや、これは……こいつらがついてなかったんだよな……」


 自分でも驚くほどの棒さばきで、たぬき3匹を仕留めてしまった。


 ただのたぬき……とは思えない。 

 よく見ると少し魔物っぽい。


(この世界、魔物いたの? 初耳なんだけど)


 驚きつつも、せっかくの獲物だ。

 食糧としてありがたくいただくことにしよう。


 俺は手を合わせ、命に感謝しながら血抜きを行う。


 さて、これをどう説明したものか……。


 そんなことを考えながら、俺は家路についた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ