5、謎
今までのことを少し考えていた。
目の前には、昨日よりもさらに成長した畑の作物が広がっている。しかも、種類までわかるほどになっていた。
俺は、ある程度察しがついていた。
サカナの異変、畑の異様な成長、木の実の大きさ、家畜の体調の変化、突然の産卵——。
それに、見過ごせないのが夕方の井戸端だ。
ミトに教えた「歌」。
この世界には存在しなかった「音楽」として考えてみよう。
もしこれが正解なら、どれほどの影響があるのか確かめる必要がありそうだ。
そう思い立った俺は、笛を作ってみることにした。
相変わらずミトは歌を歌いたがる。だから、今日からは色々な歌を教えつつ、俺は楽器を演奏してみることにした。
「ミト、今日は少し離れたところで違う歌を教えるよ。あと、面白いものを見せてあげるね」
「面白いもの?なんだろう……でもちょっと楽しみ!」
まだ正確なことがわからないうちは、村人に笛の音を聴かせるわけにはいかない。
俺たちは、いつもの丘を少し越えたあたりで腰を下ろした。
「へ〜〜、お兄ちゃんってそんなこともできるんだね!」
「ああ、これは笛っていうんだ」
俺は父から借りた小さなナイフで、太めの枝を半分に割り、それをくり抜くような感じで筒状にし、さらに、元の形に合わせて戻し、いくつか穴を開ける。
よしよし、いい感じだ。
と、我ながら器用に笛を作れたと思ったその時——
「…お兄ちゃん、前から思ってたんだけど……なんでこの『ふえ』とか『うた』っていうのを知ってるの? 村の誰も知らないよ?」
「んん?? ああ……これは……」
しまった、考えてなかった。
俺にとって、歌や楽器は地球にいた頃あまりにも日常的なものだった。
だが、この世界では誰も知らないものだ。
……どうする?
しょうがない、少しごまかして説明しよう。
「ミト、俺が気を失って寝込んでいた時期があっただろう? その時に神様が教えてくれたんだよ。うなされて苦しんで、頑張ったご褒美というか、お恵みだったのかな?」
……嘘は言ってないよな……。
「へえ……あの時のお兄ちゃんはすごく苦しそうだったもんね……神様にありがとうはした?」
「も、もちろんしたさ! そ、そうだ、ミトも一緒にお祈りしよう」
「そうだね! 神様、お兄ちゃんを助けてくれてありがとうございました。あと、おうたも教えてくれてありがとうございます」
な、なんとかなったかな……。
気を取り直して、笛を吹いてみる。
その瞬間——。
ミトの反応が、驚くようなものだった。