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41、すれ違い

 『私は一体何を望み、何を語ろうとしているのだろうか。全てが空回りしている。幼い頃から、私は自分が何者なのかを問い続けながら生きてきた』


 サクヤは深い悩みを抱えていた。王族としての教養も十分に身につけられず、剣技も結局は自己流に落ち着き、目立った業績を残すこともなく、ただ他者に頼りながら日々を過ごしている。


 『旅立ちの時も、半ば強制的に赴いた。王都にいればすることもなく、自分の内面に閉じこもることに耐えられなかったのだ。よい機会だと捉え、父に懇願して、いわば家出といってもよい行動に出た』


 『近頃、あの片田舎から呼び寄せた、私と同年代に近い少年について思うことがある。素性も定かでない平民と比べても自尊心が損なわれることもないが、出自で人を判断するほど立派ではないと自覚している』


 『違う、そんなややこしいことではない』


 『私はカナデという少年に、特別な何かを感じている。異能の力で問題を解決し、人々に喜ばれ、さらに新たな出会いを前にしてもその広い心で受け入れる。その上、豊富な知識と深い探究心は、これまで私の周囲では見かけなかったものだ』


 『そこまでは理解できる。しかし、この心の奥底でざわめく感情は、一体何なのだろうか』


 サクヤは横たわりながら、自分の身体を両手でぎゅっと締め付けるように抱いた。


 ーーーーー


「わははは!!!!」

「う〜〜〜い」

「あらよっと」

「は〜〜〜〜!!!」

 おいおい、ちょっと浮かれすぎじゃないですかね?


 初めて催されたワインとウイスキーの試飲会が行われた。モノ、ソウリュウ、ランダ、そして俺の四人でまずは毒味をし、その後、王都全域に告知され、東側キャンプ場にて盛大な祭り騒ぎとなったのだ。


「モノ!!なんという逸品を作ってくれたんだ!!ウ〜イ」

 王様はとびきりご機嫌で、モノに向かって不満のような喜びを言い放った。


「王様、飲み過ぎでございますぞ」

 さすがの大臣たちも、この状況は見過ごせないのだろう。すると、

「そうですぞ、王!こんなに美味なるワインは初めてでございます〜!!もっと飲みましょう!!」

 と、止めることなく、酒はどんどん進んでいった。


 俺はソウリュウに作ってもらったバーベキューグリルで炭火焼きステーキと焼き鳥を、ミトは鉄板で焼きそばとお好み焼きを調理していた。


「おにいちゃん、この焼きそばとお好み焼き、本当に美味しいね」

「そうだろう。野菜も摂れるし、肉と卵と麺でバランスも良い」


 普段なら、そばでサクヤがガツガツと食しているところだが、今日は警護をするために東門の前に立っていた。王女らしくない申し出に、周囲もヒヤヒヤしているようだった。


 最近、サクヤとはぎくしゃくしている。本来ならもっと俺がサポートすべきだが、なぜかサクヤは距離を置く。もしかすると近すぎたのかもしれない。そもそも、身分を考えれば気軽に接すること自体が難しいのだからな。


 そろそろ、なのかもしれない。


 ーーーーー


 ある日、カナデは王宮に顔を出した。

 王様と会うのは、もはやカナデは顔パスだった。すぐに、王様と大臣たちがいる応接間へ通された。


「おお、カナデよ。今日はいかがした」

「本日は王様に、お(いとま)を頂くために参上いたしました」

「え……」と、顔を一瞬歪める者がいた。

「ほう、何だ、いかがした」

「いえ、以前からタイミングを伺っておりましたが、一度、生まれ故郷に戻ろうと考えております」

「なぜだ。この王都は未だカナデの力を必要としている」

「あ、えっとですね、確かにお暇とは申し上げましたが、この王都もまだ道半ばであり、気になる点がございます。お許しいただければ、また戻って参りたいと存じます」

「許すも許さぬもない。王都にはカナデとミトが不可欠だ」

「ただ、ミトにつきましては、残留させようと考えております。テラッコヤを放棄するわけには参りませんので」

「そうか、ミトは留まるのか。寂しがらぬか」

「うーん、俺自身、故郷に戻ってからこの王都に帰るまで何日かかるか予測がつかず……ミトのことも考えてないわけではないですが」

「なるほど。分かった。再び必ず戻るというのなら、暇を許そう」

「ありがとうございます」

「さて、今回の帰省は何を目的としているのだ」

「以前から気になっていた事がございます。帰省といっても、実は視察を主な目的としております。いままで巡った各地域を順に訪れ、その後の発展や収穫物の変化を確認したいですね」

「真意は何だ」

「地域ごとの違いを研究するためです。作物がなぜ地域によって異なるのか、またその傾向は変わるのか。言語の違いが生じる理由は何か。もしかすると、共通する何かがあるのではないか。さらに、各地域に同じ歌を伝えたのですが、その後、何らかの変化があったかどうか、などです」

「そのような事を調べて一体何が判明するというのだ」

「何かが浮かび上がるかもしれません、ということしか今は申し上げられません」

「なるほどな。まあそれが何かの役に立つかもしれぬ。気をつけて行くがよい。さて、護衛はどのくらい必要だ」

「父上、私が参じます」

「ならぬ。お前は王都に留まれ」

「何故です。以前も共に旅をしたではありませんか。既に慣れております」

「ならぬ。二度も許すわけにはいかぬ。そもそも初回の際でさえ、お前のわがままを通してやったではないか」

「それは……しかし、他の者に任せるわけには参りません。私こそがカナデ殿を守ることができると自負しております」

「今やカナデは王都のみならず、王国全体にとって重要な存在だが、お前が同行することは許さん」

「俺でしたら大丈夫です。一人であればより自在に動けますし」

「そんな……」

「いや、カナデ、流石に一人では無理だ。必ず二人の護衛を付けさせてもらう」

「それでしたら、一人はランダさんでもよろしいでしょうか?イスト・カイオンに少々用件がございますので」

「は……?」

「ほう、何だそれは」

「イスト・カイオンには、鉄を扱う名手がいるかもしれないと、以前訪問した際に耳にしたのです。何でも鋳造の技術に秀でているとか」

「なるほど、ソウリュウとランダに弟子を取らせるというわけか。それは興味深いかもしれぬ」

「ですよね。もし、今とは違っていろんな形の製鉄が出来るようになれば、水道などの設備整備にも役立つでしょうね」

「よし、では出立の際にはその旨を申し出よ。皆で送り出す」


 こうして、カナデは王都・ウインドヒルカイオンを後にした。

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