31、謁見
「カナデくん、見えたぞ」
サクヤが指した方角に、お世辞にも美しいとは言い難い、古めかしい城が見えた。
「古めかしい」というのは、単に古城やボロいという印象ではなく、どこか歴史を感じさせる佇いがある建物だった。
明らかに最近建てられたものではなく、見る人には廃墟のように映る。
サクヤから聞いていた「王都が崩壊の危機」という言葉も、百聞は一見にしかずであった。
辺りの作物は枯れ、農地の土も乾ききっており、井戸水すら枯渇しているのではないかと思うほどの惨状だった。
正直、よくここまで放置されたなと思うほど、王都という貫禄は全く感じられなかった。
「おにいちゃん、ここもしかして、わたしたちの村よりひどくない?」
ミトは俺にしか聞こえないくらいの小さな声で呟いた。
これから俺たちは、ここから何ができるのかを探るため、不安を胸に王都の入り口へとトリーマを走らせた。
「私は少し寄るところがあるんだ。先に護衛の者たちと共に中へ入って、そこで待っていてくれないだろうか」
サクヤはそう言うと、王宮とは別の入り口へ向かった。
俺とミトは護衛の方々に案内され、王宮内で国王と謁見する前の準備室のような場所で待機するよう命じられた。
「こんな格好でいいのかな? おにいちゃん」
「本当に着のみ着のままだね。大丈夫、俺たちの目的は社交会に出ることじゃないから」
さすがに国王の御前では緊張する。
やがて国王の準備が整うと、俺たちは謁見の間へと通された。
「カナデ殿、ミト殿、遠路はるばるよくぞ参った。ウインドヒル・カイオン国王である。おぬしたちが無事に到着できたこと、心から感謝し、安堵しているぞ」
「は、ハハっ! ありがたきお言葉。わたくしはカナデと申します。お会いできて光栄至極でございます」
「ミ、ミトでございます。おに……兄と同じく嬉しく存じます」
「ははは、そんなにかしこまるな。お主たちは我が娘とそれほど変わらぬ歳。面を上げ、顔をよく見せてくれ」
「ハハっ! では失礼いたしま……すぅ!?」
「うん? おにいちゃんどうした……のぅ!?」
俺たちが驚いたその視線の先には、ここ最近ずっと共に旅をし、苦楽を共にした、なじみ深い顔が国王の横にあった。
一際めだつ凛とした顔立ちに、花のような、まだあどけなさを残す少女のような可憐さ。
先ほどまで共にしていた時の旅装束ではなく、王家らしいいでたちに身を包んでいた。
「すまない、騙すつもりはなかったのだが、どうしても途中で態度が変わってしまうのではないかと思ってな。今までの旅、感謝しているぞ」
その瞬間、今まで感じていた不思議な思いと違和感が一気に溶け落ちた。
なるほど、なるほど……いや、すっかり化かされた。
「サクヤさん……サクヤ様」
「よしてくれ。今まで通り、普通に接してほしいぞ」
「で、ではサクヤさん、もうほんとにお人が悪い」
「ははは、すまないすまない。本当に騙すつもりはなかったぞ。途中で態度を変えてほしくなかったのは本当だ。それに、王女がほっつき歩いていると思われると、まあ、いろいろあるしな」
まあ、そりゃそうだ。俺たちのサクヤに対する姿勢はさておき、護衛の警護がかなり大変になりそうだ。
「サクヤちゃん、お姫様なの?」
「まあ、そういうことになるぞ。正当後継は私しかいないから、大事に大事にされているのだぞ」
ならなぜ使いに出すのか。ほんと今までの旅を思い出すと背筋が凍るぜ。
ミトはそんなことが分かるのか分からいでか、お姫様という単語に憧れを抱いているようで、キャッキャとしている。
「ははは、このやりとりで、お前たちの今回の旅がいかなるものだったか、よく分かるぞ。本当に二人ともよくぞ参った。感謝している」
国王はガハハと笑った。
「私共はおおせのままにつかっただけでございます」
「いえ、父上。カナデくんとミトくんは本当にすごい力の持ち主でした。噂にたがわぬ、いや、それ以上のものを私は目の当たりにしてきました」
「そうかそうか。では、ここでは話しづらいこともあるだろう。少し休んでもらって、その後また別の間に来てもらうとしよう」
俺たちは広い謁見の間から、向かい合うソファのある応接間へと通された。