2、静かな村の小さな変化
ある日、俺とミトが、ここスーナ村で歌いながら釣りをしていたときのこと。
「お〜い、カナデ~ミト~」
いつもお世話になっている村人が声をかけてきた。
「なんだか下流のほうで騒いでるやつらがおるで、一緒に見に行ってみねえか?」
そういえば、さっきからなんだか騒がしい。俺は釣りを中断し、ミトと一緒に下流へ向かった。
「こんなことあったっけか?」
「いや、この魚自体見たことねえべ」
村人たちは驚いた様子でざわついている。どうしたんですか? と聞ける雰囲気でもなく、皆、おっかなびっくりといった様子だった。
俺は人々の隙間からそっと覗き込む。そして、目を疑った。
そこにあったのは、普段この川では見られないような大きな魚。それだけじゃない。獲れた量も尋常じゃないほど多かった。
「まあ考えても今はわかんねえな。とりあえず、みんなで分けるべ」
少し不安そうな声もあったが、見た目に怪しげな魚ではない。結局、その場にいた人たちで分け合うことになった。ちょうどひと家族に、ひとり分ずつ食べられるくらいの量だ。
「お兄ちゃん、よかったね! こんなこと今までなかったからびっくりしちゃった」
「そうだね。久しぶりにお腹いっぱい魚が食べられる」
普段、これほど身の詰まった魚にありつけることはない。俺がこの世界に転生してからというもの、貧しい暮らしが当たり前になっていた。地球にいた頃は本当に贅沢だったんだなと、今さらながら思う。
魚を分けてもらった俺たちは、いつものように村の中心を通って家路についた。
夕暮れ時になると、村人たちは一日の仕事を終え、広場の井戸へと集まる。そして、水を汲みながら家族のことを話したり、今日の出来事を報告し合ったり――いわゆる井戸端会議が始まる。
俺とミトも夕焼けを眺めながら井戸の順番待ちをしていた。
「〜〜♪」
「〜〜♪」
俺たちは小さな声で、「赤とんぼ」を歌った。
ミトはだんだん歌うことに慣れてきたようで、音程もだいぶ正確に取れるようになってきた。いままで歌を歌ったことがなかったのに、結構上手い。これなら、ほかの歌もすぐ覚えられそうだ。
井戸端では、村人たちのいつもとは違う明るい声が響いていた。
「は〜〜、今日も疲れた! でも、もうちょっと水持てるべ」
「ワシも今日は腰の調子がいいでよ」
「今日の水、なんかおいしいねえ」
普段よりも、なんというか……覇気がある。
「なんだか、みんな最近元気だね。お魚がいっぱい獲れたし、そのおかげかな?」
「そうだね。ミトもこのお魚食べて、また明日も頑張ろう」
俺はいつもよりも少し足取り軽く、ミトの手を握って家路についた。