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104、全攻略

 ローゲ遺跡の調査が再開された。

 東方に位置する遺跡、つまり、「シューマンの指定曲」が記された魔導書が見つかったと、魔導士から報告を受けた。


「見つけるの、けっこう苦労したよ」


 そんなふうに飄々と言ってのけた魔導士だったが、どう見ても微塵も苦労したような気配はなかった。


 前回の演奏時とは違い、今回はローゲ遺跡周辺、さらにローゲ温泉の周辺にも調査隊を派遣し、先んじて警戒にあたっていた。


 渡されたのは『魔導書・第3章【東:炎の岩屋】』。

 その中に記された譜面『シューマンのXXX』を、定刻にピアノで演奏することになっていた。


 その時刻が訪れ、俺は静かに鍵盤に指を置く。

 ミト、サクヤ、そして王が、この部屋には同席していた。


 そして数十分後、報せが届いた。


「報告します。ローゲ遺跡に反応が見られたそうです」


 俺たちはすぐさま高速トリーマに乗り、現地へと向かった。


 鳳凰のような姿を模した壮麗な外観を見せる遺跡。

 しかし、以前の王都西遺跡とは異なり、炎をまとった波状攻撃をこちらへと放ってきた。難攻だったが、サクヤの活躍により一気に突破。地下へとたどり着き、俺たちはローゲ遺跡を攻略した。


「今度の遺跡の楽器は『金管楽器』ですね」

「『金管楽器』? 説明してくれ」

「さまざまな形状や素材で作られ、人間の唇を振動させて音を出す楽器です。演奏にはかなりの訓練が必要です」


「また素材の入手が難しいのではないか?」

「金管楽器の素材は、イブキさんが合金を完成させているので、今回は比較的スムーズにいけそうです」


「では、さっそく製作に取りかかろう」


 こうして、ローゲ遺跡の攻略は完了した。


 続いて、スーナ村遺跡。

 こちらも同様に『魔導書・第4章【北:流の岩屋】』の指定曲『メンデルスゾーンのXXX』を演奏し、無事に攻略。ここでは『木管楽器』の製造法が記されていた。


 さらに、西遺跡の調査。

 これはザナカ村の北方、ヤトマから北東に位置する地点で発見された。

『魔導書・第2章【西:光の岩屋】』の指定曲『リストのXXX』を演奏し、無事に攻略。ここには『打楽器』の製造法が記されていた。


 こうして、全方位の遺跡攻略が完了し、俺たちは再び次の作業へと進むこととなった。


ーーーーー


「まったく、仕事が多すぎるわい」

「そんなこと言って、おとうちゃんすっごく楽しそうなのです」

「正直、私も大変だけどさ! こんなに楽しい忙しさは初めてだよ!」

「木管楽器の素材集め、ほんとうにすっごく大変なんだよ? カナデ、わかってる?」


 製作チームの負担は相当なものだろう。

 しかし、その表情には疲弊の色はまったく見えない。


「てへへ、みんな楽しそうですねぇ」

「わたしとおにいちゃんのお仕事は、これからまたお教室があるから大変だけど、そっちも楽しいよ」


 俺とミトは音楽教室の担当もある。ただ、もう「教室」というレベルではないほどの規模になってきている。人数を増やさなければ、手が回らない。


「カナデ、これを作ったあとはどうなるんじゃ? なにが目的なんじゃ?」


「今のところ、遺跡周辺の脅威は去りました。でも、魔物や災害への警戒はまだ必要です。それと、目的という意味では、以前話した『楽団』の結成が本命です。俺がいた世界では『オーケストラ』とか『吹奏楽』って呼ばれてるんですが、最終的には『交響楽団』を編成する予定です」


「それを作って、どうするんだい?」

「遺跡から発掘された『楽器』と『楽譜』の解析を進めて、それらを合同で演奏してみて――何が起こるかを確かめる。それが最終目的です。これを終えないと、この王国に『真の平和』は訪れません」


「……なにが起こるのですか?」

「どかーん! てへへ」


 相変わらずというか、危機感がないというか、緊張感がないというか……でも、そこがこの家族の良さなんだ。


「一応、遺跡の攻略は全部終わったので、これで一段落ですね」

「ここからまたしばらくは、製作や教育に時間がかかるじゃろ。ひとまず脅威も去ったし、のんびりいこうや」


「「「「そうだそうだ〜」」」」

「「「「宴会するぞ〜〜〜」」」」


「ところでおにいちゃん、この『パリパリモチモチした皮の中に、じゅわっとしたお肉と汁』はなぁに?」


「ああ、これは『ぎょうざ』って言ってね。皮は小麦粉をこねて、小さくちぎって棒でのばして平たくして、中の『あん』は、挽肉とニラ、にんにく、タケノコ、椎茸、キャベツを全部刻んで混ぜて味つけしてから皮で包んで。鉄鍋に並べて中火で焼いて、焼き目がついたら水を入れて、フタをして2分、中火で蒸し焼きにするんだ」


「こ、これは……ビールがすすみすぎてしまうわい……」

「ご飯にもあうね〜!!!」

「てへへ、これはカナデちゃんに教えてもらった『しょうこうしゅ』がピッタリだよ」

「カナデ、これ何個あるの? ぼくこれ食べすぎちゃうんだけど」

「カナデさまのお料理は不思議なのです。こんなの普通思いつかないのです」


 ……まあ、俺も先人の知恵の恩恵なんだけどな。


「茹でてもおいしいね〜! カナデ、この酸っぱい『たれ』はなんだい?」

「これはポン酢です。柑橘とお酢と醤油で作りました」


「ちゅるちゅるでおいしい〜。ぼくこっちも大好き」

「まったく、カナデはえらいもん作りよるわい」


((((((まったくだ〜〜))))))

((((((カナデは悪魔や〜〜〜))))))

(ガツガツガツガツガツ……)


 と、今日もみんなが美味しそうに食べてくれる、いつもの大切な時間だった。

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