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103、製作開始

 束の間の休暇を終えてしばらくたった頃、俺とミトは王に呼び出され、王宮に来ていた。西遺跡の解析が一部を除いて終わったとのことだった。


 内容は大体、予想通りだった。


 外観に書かれていた文字は「以下に書かれる楽譜をいずれかの楽器で演奏すること」という内容で、内部の床のスイッチも同様だ。

 三つの部屋に関しては、まだ読み取りづらい部分があり、それを俺とミトに任せたいとのことだった。


「すごいですね、もうほぼ終わってるじゃないですか」

「どうやらカナデの国の『漢字』より、『欧州文字』のほうが解析するのが容易だったそうだ」


 そりゃそうか。漢字なんて生活に組み込まれていなければ、ただの象形文字にしか見えないだろう。

 それにしても、こうして何千年かもわからない前の知識や文化が文字という形で残っていることに、俺は今さらながら、言いようのない重みと神秘を感じていた。


 崩れている部分や、意味のつかみにくい箇所を、俺とミトで前後の文脈から推測し、時間をかけて慎重に解読していった。

 ようやくすべての文が繋がったとき、俺たちは互いにうなずき合う。


「まず、2の部屋にあった文字だけの石板。これは古代における宗教の内容ですね。解析を担当してくれた考古学の先生たちの報告通りだと思います」


 先に解析していた大臣のチームが、「この時代の価値観とはまったく違うものだった」と報告していたのはすでに通達済みだった。


「そして、問題の3番……『謎の物体と文字の石板、楽譜の石板』です。これはほぼ予想通りでしたね」


「ヴァイオリンの製法と、その熟達方法だったな」

「そうです。具体的には書き出した方が理解が早いですね」


 ・ヴァイオリンの効率的な製作方法

 ・素材の選定と使用法、その素材の産地

 ・大きさを変えることで派生した四種の似た楽器の存在

 ・ヴァイオリン演奏の習得法と教育計画

 ・古代独自の楽曲の楽譜


「以上です。まずは早速作ってみたいですね。そして、ミト中心でヴァイオリンの習得がどのくらいの速度で可能なのか、それも試してみたいです」


「カナデ、このヴァイオリンを作ったとして……なにができるようになるのだ?」

「この先、まだ踏破してない遺跡に何があるかはわかりませんが、おそらく、それらを攻略していけば——『楽団』を作れるようになります」


「『楽団』とは、なんだ?」

「いろいろな種類がありますが……まず、このヴァイオリンと俺の弾くピアノがあれば、『室内楽』という小規模な『楽団』を作ることができます。

 そこから演奏の幅が一気に広がって、多彩な楽曲を再現できるようになります。音の世界が一段と豊かになるんです」


 その時、俺の脳裏には、かつて地球で観たオーケストラの映像がふっとよぎった。

 ——あれが、この異世界で再現できるかもしれない。

 胸の奥がじわりと熱くなるのを感じた。


「わかった。ではその順序はおぬしに任せる。早速やってみるがよい」


「かしこまりました」


 ーーーーー


「ということで、さっそく作ってみましょう」


「ふむぅ……なるほど、これの通りに作れば良いのじゃな?」

「すごいのです。これならものすごく簡単に作れちゃうのです」


 俺はソウリュウとランダにヴァイオリンの製作を任せることにして、素材探しに移る。


「この『黒檀』は、結構大変なところにありそうだね」

 スクは眉をひそめる。


「それがないとだめか?」

「ダメってことはないけど、できれば遺跡に書いてある通りに作ったほうがいいと思う」


 やはり……過去の記録に忠実に従うほうが、思わぬ副作用や失敗を防げるかもしれない。

 俺たちは、黒檀をはじめとした各種の素材を探す旅に出ることにした。スク中心の捜索隊が組まれ、俺たちはそれを見送る。


 ーーーーー


「ヴァイオリンを演奏できそうな子たちを集めてみよう」

 ミトが提案してくる。その方法は彼女に任せるとして、集まった生徒たちへの指導については、遺跡に記された教育プログラムをベースに行なうことにした。


「本当にこの通りにやれば、早く覚えられるのかなぁ」

「まあ、ひとまず全部試してみて、なにか問題があったら修正していこう」


 俺自身も半信半疑だったが、遺跡の知識を信じるしかない。

 ミトも真剣な眼差しでうなずいた。彼女は教える側の責任を感じつつ、どこか楽しそうでもあった。


 ーーーーー


 しばらくして、スクたちが戻ってきた。

 どうやら、無事に黒檀やその他の素材も見つけてきてくれたらしい。これで製作に入れる。

 遺跡の方法に従えば、効率的に作れるということなので、ソウリュウとランダに任せておけば、早ければ数日で形になるだろう。


 いよいよ、音楽による『覚醒』の準備が整いつつある。

 楽器という形をとったこの文明の残響が、俺たちの手で再び音を鳴らす――その瞬間が、今まさに近づいているのだ。

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