101、図書館調査
王宮図書館へと続く回廊——その地下通路にそびえ立つ柱には、「古代文字」が刻まれていた。
俺とミトは、その文字の検証に来ていた。
まずは、図書館へと至る通路沿いの文字を解読してみる。どうやら、そこには特別に重要な言葉は刻まれていないようだった。
「なにが書いてあるのだ」
王が気になっているのだろうか、やや急かすようにして声をかけてくる。
「いえ……もう少し詳しく調べないとはっきりしませんが、方角とか方向とか、あとは季節や動物に関することが書かれているようです」
地球の遺跡にある壁画や石板の碑文なども、わりと日常的なことが書かれていると聞いたことがある。
「お酒がうまい」とか、そんな具合に。
「他のところにも、もしかしたらなにかあるのかもよ?」
ミトが言った。他の場所……そういえばこの図書館って、いったいどういう構造になっているんだろう。
「東西南北に目印のようなものがあるよ」
そう教えてくれたのは、薄紫の髪の者だった。この人物は図書館の管理者であるはずだ。
「目印、ですか?それはどこに、何があるんですか?」
「まずこの図書館は、上から階段、通路、そして入り口へと繋がっている。でもね、この図書館の上には、人がかろうじて通れるような通路があるんだ。行ってみるかい?」
——なんでそんな大事そうなことを、今まで教えてくれなかったんだよ。
まあ、「図書館目当てです」って言われたら、そんな上の構造なんて気にしないのが普通かもしれない。
「あ、もしかしたら……」
ふと気になって、俺はもう一度柱を調べてみた。
「ああ、やっぱり……」
「どうしたのだ、カナデ」
「はい……この柱には、方角ごとに動物が対応している、というような内容が書かれている気がします」
うまく解読はできないが、おそらくそんな意味のはずだ。
「まずは、行ってみようか」
薄紫の者が静かに言った。とりあえず、その構造を確かめることにした。
通路から図書館を正面に見たとき、右奥と左奥の角に、微妙な隙間があるのを発見した。
今まではまっすぐ進むことしか考えていなかったし、魔法の光で照らすと、その角のあたりはちょうど影になっていて、うまくカモフラージュされていたようだった。
「では、どちらから行きましょうか」
「左から行きましょう」
俺たちは左奥へと進み、約300メートルほど歩いた先にある角へと足を踏み入れた。
曲がった先には、ようやく人一人が登れるほどの、やや狭い階段があった。手すりも壁もなく、登るには少し危険な構造だ。
「俺とミトで行ってきます。王様たちは、危ないのでここで待っていてください」
「わかった。カナデも、気をつけるのだぞ」
永遠にも思えるような長く長い階段を、俺たちは登っていった。
緊張と手汗、そして荒くなる呼吸で、精神がだんだんと不安定になる。
それでもようやく、俺とミトは平たい足場へと辿り着いた。
地下の地面からは、およそ100メートルほどだろうか。
さっき歩いた角までが約300メートル。横幅合計600メートル、高さは約100メートルに到達したことになる。
しかし、見上げた先にはまだ「箱」のような構造物が続いていた。
どれほど巨大で、どれほどの蔵書が収められているのだろう——その途方もなさに圧倒されかけた、そのとき。
「あっ、おにいちゃん、あそこ」
ミトが図書館の壁沿いを指さす。その視線の先、ちょうど中央あたりの壁に、なにか模様のようなものが浮かんでいた。
俺とミトは慎重に足を運び、その「模様」のある場所まで辿り着いた。
「これは……なにか動物の絵だね。それに、文字もある」
「まずは写しておこうよ。わたしが文字を読むね」
「じゃあ俺は、この絵を写生するよ」
——それにしてもこの動物、どこかで見たことがある。
亀に蛇が巻きついたような姿をしていて、現実には存在しない生き物だが、どこか神秘的な雰囲気をまとっている。
「できたよ。おにいちゃんは終わった?」
「うん、大丈夫だよ。じゃあ次へ行こうか」
俺たちは壁づたいにゆっくりと歩きながら、次々に現れる文字と動物の絵を丁寧に記録していった。
そして、四方すべてを写し終えた頃、ようやく王の待つ入り口へと戻ってきた。
「無事でなによりだ」
「ありがとうございます。他に、こういった場所はありませんか?」
俺は薄紫の者に尋ねた。
「他に、こういうところはないね。少なくとも、君が期待しているような“大きなもの”は」
——なんとなく、ひっかかる言い回しだ。この人は、いつもこんな感じなのだろうか。
「では、もう地上へ帰還しましょう」
そう口にしたのは、とある大臣だった。
俺たちはそれに従い、また長い階段を登っていった。