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アプローチ

※残酷描写があります。変態がいます。ご注意ください。

少し長いです。



 真夜中に一人で外に出るとは、何を考えているのか。

 危険すぎるだろう、何をしている!

 久々の帰宅だから興奮して眠れないのか。

 いや、いつでもどこでも寝ていた記憶があったから関係ないな。


 ──まさか俺を誘っているのか?

 いままで観察するだけで俺に話しかけてこなかったのは、屋敷の奴らが寝静まるのを待っていたのか?


 違っていても行くことに変わりはない。

 屋敷の中では俺が万能であることをアピールしたが、アプローチせねば何も始まらない、と己を奮い立たせる。


 憶測に過ぎないが、エストレラがいる海岸へと急いで向かう。

 例え勘違いであっても、近づけるならちょうどいい。近づく理由が欲しかった。


 砂浜に一人、佇んでいるエストレラを見つけた。

 声を掛けずとも俺が来たことに気づいたようで、振り向いてじっと俺を見ている。


 やはり!俺を待っていたのか。初手は失敗に終わったからな。

 すぅぅ……はぁぁ……落ち着け、慎重に、冷静に。


 どくんどくんと騒いでいる心臓の音が聞こえてしまうのではないか、と不安を抱きながら彼女に近づく。

 体を震わせないよう戒め、跪いて頭を垂れる。

 声を震わせないよう一呼吸置いて、言葉を発した。


「拝顔の栄に浴しましたこと、大変光栄に存じます」


 沈黙の中、ザザンと聞こえる波の音が少しばかりうるさく感じてしまう。

 そう思うほどに緊張している、息が詰まりそうだ。


「あなたがマルバ家に侵入した目的は何ですか」


 血も凍るような冷たい声に身体が震える。

 答えなければ、そう思うのに声が出ない。


「……?顔を上げて答えてください。というか、なぜ跪いているのですか?」


「わたくしはあなたに出会うために、生まれてきました。あなたはわたくしの全て。わたくしが望むのはあなたにお仕えすることです。故に、跪くのは当然のことです」


 彼女に言われた通り顔を上げて答えたが、緊張のあまり早口になってしまった。

 跪いたままの俺を見下ろす彼女の瞳は俺を見ている。間接的ではなく、眼鏡もなく、一歩足を進めれば触れてしまえるほど近くにいるから、気圧されてしまったのだ。


「悪魔が人間に仕えるために生まれるとか聞いたことありませんし、意味がわかりません。何を根拠にそのようなことを言っているのですか?そもそも、会ったこともないでしょう」


 うっ、なんということだ。俺を覚えていないだと?

 俺ほど美しい容姿を持つ者は他にいないし、記憶を消さない限り忘れられたことなど一度たりともない。

 俺が悪魔であることも気づいているのに、それほどまでに、俺には興味がないということか……と精神はがっくりと項垂れながらも、気合で顔を上げたまま答える。


「学園パーティーでお会いした際、あなたに従属することを誓いました。下僕でも何でも構いません。あなたのお傍にあることを、お許し願いたく存じます」


「学園パーティー?──あぁ、許可もなく勝手に手を取った人ね。 慇懃無礼な感じと、纏わりつくような視線が不気味だったから覚えてる。……それらを我慢しながら、私はマナーを守ったのにキスした気持ち悪い奴」


「ぐっっ、思い出していただけたようで何よりでございます。では改めてご挨拶申し上げます、シヴァ・アルゴルと申します」


 気持ち悪い……あの時の嫌悪感は、俺に対してだったのか。

 大抵の人間は狂喜していたことなのだが。

 はぁ、人間の死を求め享楽しか知らない俺が、まさか悲しみを味わい知ることになるとは思わなかった。

 これが痛み……苦しい……。


「顔を歪めているところ悪いけど、手を差し伸べてもいないし手を取られたとき下へ押し返したでしょう。そもそも、キスする動作をするだけで触れないのがマナー。 なのに、拒否したのにされたくもないことをされたら嫌な思いするのは当然でしょう。……はぁ、庭園で会ってそれだけだったと思うけど。どうして仕えることに繋がるの?」


「魅了魔法にかかりました。そして、いま、強化されました」


 美形の顔を歪めて嬉しそうに笑う俺を、怪訝な顔をしてエストレラは見ていた。

 悪魔に人間のマナーを求める私が変なのか、変態めいたことを言う悪魔が変なのかと悩みながら、彼女がさらに眉間に皺を寄せて俺を見ていたことを知らない俺の心は、舞い上がっていた。


 ああ、その顔を見てわかった。

 これは悲しみによる痛みではなかった。

 彼女に見られているという快楽からなる痛み。

 心を射抜かれたがために、感じた痛みだったのか。


 俺を感じてくれて、覚えてくれていたのだ。フフッ。

 そして、容赦ない言葉(砕けた口調)で話している……それすなわち、気を許してくれている!


「エストレラ様と出会ったあの日、畏れながら印をつけさせていただきました。ですが、あなたはすぐに魔法陣を消滅させました。 そして、あなたの溜息には魅了魔法がかかっているようです。故に、エストレラ様への想いが強化されたのです」


「……言葉が通じないの?全くもって理解できないのだけれど。……ん?ちょっと待って、魔法陣?」


「はい、キスをした際に手の甲につけさせていただきました。ですが、エストレラ様は手を拭っていとも簡単に消滅させておりました」


 エストレラは眉間に皺を寄せ話の続きを促しているが、恍惚としている俺は気がつかなかった。

 仕方なしに彼女は口を開いた。


「手を拭ったのが見えていたのね、失礼なことをしてごめんなさい。──じゃあ、あの時感じた魔力は魔法をかけていたってことね。 でも、魅了魔法は意味がわからない。使ったこともないし、使いたいとも思わない」


「いえ、感謝しかございません。エストレラ様が手を拭ってくださったお蔭で、あなたの存在を知ることができたのですから。 魅了魔法に関しては、無意識のうちにかけているのかと存じます。現にわたくしは、エストレラ様に心を奪われております」


 まさか手を拭ったことを謝られるとは思っていなかった。

 印を勝手につけたことを咎めるならまだしも。

 悪魔にも謝るとは、なんてお優しい方なのか。


 ……本当に人間か?

 俺はまたもや魅了魔法にかけられてしまった。

 他者への情など全くない悪魔に対して、このような想いを植え付けたのだ。

 魔法を使っていないなどありえないだろう。


 まったく、無意識とは恐ろしいものだな。

 エストレラ様の魔法であれば、俺にも効果がある──ほう、超越的な存在である俺だからこそわかる。彼女に見られている!グフフッ。


「──確認したけどかかっていないみたいね、あなたの勘違いのようだけど。 そもそも、どうして私に仕える話になっているの」


「いえ、堅固な魔法です。 正直わたくしより強い者など存在しないと思っておりましたが、エストレラ様に出会いました。あの魔法陣はわたくしよりも魔力量、技量ともに上でなければ解けません。そもそも、人間に解けるものだとは思ってもおりませんでした。 わたくしはあなたに仕えるために、マルバ辺境伯家に赴かせていただきました」


「私があなたより強いから仕えたい、ってことね。 はぁ……そんな人探せばたくさんいると思うけど。……家族にも屋敷にいるみんなにも害することはないのね?」


 そんな人間を探したところで、あなた以外存在しないと思うが何も言うまい。

 俺はもう、あなた以外に興味はない。

 俺の目に映るのは、エストレラただ一人だ。


 目を細めて俺を見る彼女に、その目に映っているのだと思うと興奮する。

 当然だと言わんばかりに、俺は微笑んで頷いた。


「記憶操作魔法はかけましたが、あなたを知りたいがために行ったことです。今後、マルバ家を害することはありません。 それに、敬愛するあなたの前では魔法も武器も無意味です。わたくしはこれから先、全てにおいてエストレラ様を優先いたします。……なにより、わたくしがそうしたいのです。あなたはわたくしの全て。あなたの姿も言葉も行動も、全てがわたくしには輝いて見えます。 何にしても、わたくしの答えはひとつ──あなたのお傍に、あなたにお仕えさせていただきたく存じます」


 跪いたまま自分から目を離さない俺を、彼女は眉間に皺を寄せて見ている。

 目をつぶった後、はぁーと息を吐いてから俺を見た。


「少しでも怪しい行動をしたら、即刻退場でいいのなら」


「神よ!心から感謝いたします。これから精一杯仕えさせていただきます」


 即刻退場の意味が何を表すかはわからないが、傍にいることを許されたのだからどうでもいい。

 たとえエストレラ様が俺のことを受け入れてくださらなくても、答えがどうであれ俺はエストレラ様の命尽きるまでお側を守り、傅く僕として生きつもりだったのだから、許されたことに感謝を述べた。

 満面の笑みを湛えていた俺を怪訝な面持ちで見ていた彼女が、不思議そうに首を傾げた。


「悪魔にも神は存在するのね」


「ははっ、他の悪魔は存じませんが、わたくしには神はおりませんでした。 わたくしの神はエストレラ様、あなたです。あなた様に感謝をしたのです」


「悪魔の神とか嬉しくないし、それ以前に、私は人間よ」


 悪魔を臆さず、受け入れ、与えてくださるあなたは、正直人間とは思えないが言い難いので、否定はしない。


「人間は神子や聖女、勇者といった人間を神と近しい存在としているではありませんか。神も複数おり、誰を信仰するかも自由。神を定めている……神が選べるのであれば、わたくしの神はあなたです。 無論、気の変わりやすい人間とは違い、永遠の忠誠を誓います」


「いや、神を選んではいないと思うけど」


 たしか教会には様々な神の像があり、それぞれが祈りを捧げたい神の像の前で跪いて祈っていたはずだ。

 教会にも足を運んでいて、祈りを捧げる神は人それぞれだと目の当たりにしているはずだが、彼女にとってそれは神を選んでいるとは言わないようだ。

 ふと、彼女の神は誰だろうかと気になったので聞いてみる。


「では、あなたの神は誰ですか?」


「?……いません」


 信仰する対象がいないのに教会に行くのは、寄付のためということだろうか。

 祈らずとも自身の力で解決するだろうから、それ以外思いつかない。

 なんということか……彼女は善行のためだけにわざわざ足を運ぶというのか?そんな人間いないよな?


 ああ、やはり彼女は人間ではなかった。

 捉えることのできない存在なのだと改めて実感し狂喜した。


「それもまた選んでいるのと同様です。つまり!わたくしの神がエストレラ様であっても誰にも文句は言われませんし、言わせません!!もし何か言われたら、神との出会いを、神を知る喜びを見つけられることを祈りましょう」


 うーん、と頭を抱えて悩んでいる彼女に微笑みながら捲し立てる。


「屋敷の者共の中には、神推しと言う者もおりファンクラブもあるのですから、わたくしの唯一神になったところであなた様に支障はございません。末端ではありますが、わたくしも加わらせていただきましたので尽力いたします。実際では初めて参加させていただく集会のために、わたくしのイチオシを見出そうと思います」


「え、いまなんて?……ファンクラブ?」


「ご存じなかったのですか? 屋敷の者共で、エストレラ様のファンクラブを設立しております。ちなみに運営もとい会長は、カリス様でございます」


「カリスお兄様!?」


 信じられないと言わんばかりに、目口はだかっている彼女に思わず笑ってしまう。

 どうやら本当に知らなかったようだ。それならば、と更なる情報を提供する。


「副会長はアドミラル様、ルブロプレナ様、アンサス様でございます。 集会は三ヶ月に一度あります。抽選で当たった者が参加権を得られます。そこでは愛らしい、好ましいなど過ごした中で印象に残ったエストレラ様の言動や表情などを事細かに発言します。自身が選り抜いたエストレラ様のイチオシを公言するのです」


 泣きそうな顔で「お父様にお母様、アンサスお兄様まで……」と言葉をこぼしている。

 この泣き顔はイチオシに使えるか?と一瞬考えたが、バラしたことを咎められる可能性があるのでやめておく。


 俺だけに見せた俺限定の泣き顔だ。グフフッ。

 ──ふむ、少しでも心を和らげるために他の情報を伝えようか。

 主の心の安寧が従者の喜びだからな。


「ご安心ください。ファンクラブは、ルブロプレナ様のもございます。会長はアドミラル様です。カリス様、アンサス様は入会しておりません」


「はぁ、お母様のファンクラブは、私があるのだから当然あるでしょうね。会長がお父様なのも納得。 ふーん、お兄様たちは入っていないのね。──ん?入っていたらマザコンを公言していることになるのか。──んん?私のファンクラブには入っているのよね。…………」


 思考を放棄したようで、遠くを見るような目をしている。

 親バカ妹バカは、屋敷の奴らはもちろん領民も周知の事実だ。

 彼女は他者だけではなく、自分自身にも興味がないのだろうか。

 問いかけてみようと口を開こうとしたら、彼女の方が速かった。


「お兄様たちのファンクラブもあるのよね。会長はお母様なの?」


「いえ、ございません。アドミラル様のファンクラブもございません。 エストレラ様とルブロプレナ様は、老若男女問わず人気ですのでございます。しかし、アドミラル様、カリス様、アンサス様に対して屋敷の者共も騎士も尊敬の念はありますが、ファンクラブとなるとまた違うもののようです。 領民にもファンクラブが存在するのかは存じませんが、マルバ家にはございません」


 特に妹バカの二人は、エストレラ様を優先することが目に見えているため、マルバ家に勤める女共はファンクラブであってもないとされている。

 自分たちもエストレラ様を優先するであろうに、まったく勝手な奴らだと呆れながら彼女の言葉に耳を傾けていた。しかし、彼女の言葉に己の耳を疑い、つい聞いてしまった。


「お父様もお兄様たちも、美形で体つきもいいし優しいのに意外ね。領地を守ってくれていることも考えると不思議でならないわ」


「畏れながら、そのようなお考えがあるのに、ご自身に関してはないとされるのはなぜでしょうか」


「……みんなの記憶を見たのなら、わかるでしょう。結構問題を起こしているから、面倒な仕事を増やすような私にはないと思って。 そもそも、ファンクラブ自体も考えたこともないから。ありえないでしょう。お父様ならまだしも、真面目なカリスお兄様が会長っていうことも理解できないし」


 眉間に皺を寄せて首を傾げている彼女は、本当に理解しがたいと思っているようだ。

 うーん、と考え込んでいるため俺もどうするべきかを考える。


 ふむ、彼女はネガティブ思考なのか?

 容姿も魔法も料理も裁縫も、全てにおいて万能でありながらひけらかすことなく、謙虚で優しい彼女を嫌う者など、皆無に等しいのだが。

 というかいるのか?屋敷には誰一人としていないが。


 心配性である屋敷の奴らが過保護なために起きた弊害か?

 口うるさく言っている様は見たが、何かあったら面倒ではなく不安や恐怖の方が強い。


 ご自身の存在価値を理解していないように思える。

 好かれていることを理解していないのであれば、集会に参加させてみるか。

 覗いた記憶からは、皆一様に興奮しながら褒めちぎっているものしかなかった。


 それとも彼女に魔法をかけてみるか……効果はないだろうが。

 かけるなら許可をもらわねばならないが、おりないだろうな。

 ──とりあえずエストレラ様の自己肯定感を高めるために、口を極めて褒めちぎるところから始めるとするか。よしっ!


「エストレラ様は、生まれながらにして傑出した才能を持ち聡明でございます。知識だけではなく、それを活用する能力もあり謙虚で努力家、誰に対しても優しく思いやりに溢れているお方です。素直で抜けたところもありますが、それはご愛嬌というものです。 あなた様の容姿は吸い込まれそうな大きな瞳、長くて綺麗なまつ毛、鼻筋がスッとまっすぐに整った鼻、食べてしまいたくなる潤い艶のある丹花の唇、耳に残る落ち着きのある声、滑らかで透明感のある肌、ふっくらとした豊かな胸、艶めかしくくびれた腰つき、スラリと長く美しい脚、色香漂っているのに笑顔は大変愛らしく、魅力的でお美しいです。 星々が煌めく明るい夜空のような菖蒲色しょうぶいろの髪も、澄んだパープルダイヤモンドのような淡紫の瞳も、エストレラ様の全てに誰もが目を、心を惹かれ奪われます。そして──」


「ちょっ、ちょっと待って!急に何を言っているの!?」


 目を見開きポカーンとしながらも静かに耳を傾けてくれていると思ったら、まだ終わっていないのに話を遮られてしまった。

 話を止める理由を、恥ずかしがり屋の彼女の性格を理解していればわかるが、謝りながらも気にせず真顔で言い募る。


「エストレラ様がどれほど素晴らしい存在かを説明しております。理解していただかなくてもよいのです。ただ、ご家族もわたくし共も、エストレラ様をこのような方だと思っていることを語りたいだけです。 では続けます。何をしていても優雅で、物腰が柔らかいお方です。少しばかり鈍く、方向感覚がないところもありますが、そこもまたご愛敬というものです。 そこらの女性が束になっても、いえ、比べるまでもなく敵わないほど、内側から輝く美しさがあり、誰もが虜になる存在で、んんぅー!?」


 俺は目を見開いた。

 ……信じられないことに、彼女に触れられ、口を塞がれているのだ。

 更には、顔を赤くした彼女に睨まれている!

 涙目に見えるのは気のせいか?俺の希望か妄想か!?


「ちょっと、黙って。…………はぁ、何が目的?答えてっ!」


 彼女は本気で言っているのか?

 いまこの状況で、俺は口を塞がれている。

 ……答えられないのだが。

 睨んでいるな、目を合わせているはずなのにご自身の手が見えないのか。


 普段はしっかりとしているのに時折抜けているところがある、と屋敷にいる奴らの記憶を見た時に理解した気でいたが、実際に見るとこんな感じなのか。

 なるほど、これがギャップ萌えというやつか。


 ……ぐはっ!可愛い。

 どうすればいいのか、俺はこのままでも非常に嬉しいが。

 ふむ、外される前に香りを堪能しておくか、すぅ──


「ひゃあっ!何するの!?」


「口を塞がれていたので、お答えするべくしたことでございます」


「手を添えればいいでしょう!?舐める必要ないじゃない!」


 息を吸うだけでは物足りないな、と思ってしまい、つい舌が出てしまった。

 このような状況が再び起こるだろうか、と思ったから……ほんの出来心だ。


「その美しい手に触れて良いのであれば、喜んで、存分に触れさせていただきます」


「……今後、どちらもしないで」


「なんと!それは残念です。 まぁ、可愛らしいお声が聞けたので、善処いたしましょう。ちなみに、お手は香り良く甘かったです。お夜食にスイーツを摘ままれましたか」


 微笑んで尋ねてみたら、目を逸らされた。

「いえ、摘まんでいません」なんて言葉を返す彼女が愛らしくて、思わず声を出して笑ってしまった。

 ほんの少し甘い香りがしたから尋ねてみたことだったが、本当だったようだ。


 機嫌を損ねたのか逸らしていた視線を俺に戻し、むっとした表情で睨まれてしまった。それもまた愛らしかったので、思わず口に出す。


「エストレラ様の香りを堪能しよう、と勢い余って舐めてしまいました。 美味しかったです、ごちそうさまでした」


「……ちっ、汚い」


 突然のことで目を見開いて固まってしまった。

 目の前で魔法を見ることができたのだが、それ以上に嬉しいことがあって反応が遅れてしまい、挨拶ができなかった。


「……おやすみなさいませ、エストレラ様」


 当然のように無詠唱で手を洗浄魔法で綺麗にしてから即座に転移魔法で先に帰ってしまった彼女に、傍にいなくとも挨拶をする。

 短いながらもエストレラ様の時間をいただいたことで、身も心もエストレラ様に捧げることを改めて誓いながら、俺も屋敷に戻った。



アドミラル→父親  ルブロプレナ→母親

カリス→長兄    アンサス→次兄  です。

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