悪魔
※残酷描写があります。ご注意ください。
久しく帰らない間に、マルバ家の状況が変わっていた。
私の専属従者が一人、増えていたのだ。
その者の名は──シヴァ・アルゴル
この悪魔は10歳から従者として屋敷にいて、私が生まれる前からマルバ家に仕えていたという。
なんで悪魔かわかったのかって?鑑定魔法を使って見たからね。
もちろん、普段は人に鑑定魔法なんて使いません。プライバシーの侵害だからね。こいつ怪しいな、って奴には使うってだけのことです。
──不思議な感覚だった。
身体中の血が湧きたつほど憤っているのに、口調はとても落ち着いていた。
私は、怒りの沸点を超えると返って冷静になるタイプらしい。
だから、目の前に悪魔がいても衝動的に行動することはなかった。
まぁ、周りにみんながいたからっていうのが大きいけど。
いなかったら屋敷から離れるために、すぐさま掴んで転移魔法を使っていたと思う。
その後は……場合によってはフルボッコかな。
だって、あの発言だけで洗脳か記憶を操作する魔法を使ったことがわかったから。
他のみんなも苦笑いで、誰も彼もがあの悪魔がいることを当然のように思っていた。
「はぁ、王都で面倒事があったから王宮スイーツ諦めてさっさと帰ってきたのに。こっちでも問題が起きているとかなんなのよ。こっちの方が面倒くさそうだし」
悪魔なんて存在するのね、と不思議に思いながら仕事中の悪魔の様子を窺う。
溜息は止まらないし頭は痛いけど、今後のために考えなければいけないからね。
私が持つ悪魔のイメージは──私利私欲が強い感じかな。
黒色。羽根や角、牙がある。魂を喰らう。粗野で殺戮好きとか自分の欲に素直な、思うままに振る舞って生きている感じ。
居座っている悪魔の外見は、黒髪碧眼。羽根も角も牙もない。
顔は切れ長の目でかっこいい系。いや、微笑みは色気漂う美人系か。
ん?こっちを見て笑んできた……うわぁ、後ろに花が見えるよ。
なぜかゾクッと寒気がしたので、眉を顰めてこっち見んなと言わんばかりに顔を逸らした。
体はがっしりではないけど、スラッとしていながら引き締まった素敵な筋肉、いい体つきをしている。腹筋6パックぐらいありそうな感じかな?……うーん(ガン見)。
とりあえず、高身長で美形であることに変わりない。声も見た目同様に色っぽく美声だ。
私が思う悪魔のイメージが本当なら、家族にもマルバ家に仕えるみんなにも領民にとっても危険な存在だ。
本来ならすぐさま始末しているけど、いまのところ問題はない。
清掃、重量物の運搬などはみんなと同じく魔法を使用して仕事をしている。
アフタヌーンティーや食事の給仕などの仕事もそつなくこなしている。
悪魔の所作は、優雅さと自信を示していた。そう思うほど、見事なものだった。
──先入観に囚われてはいけないよなぁ。
無意識にしている前提、思い込みがあると大事な手掛かりを見逃すことがある。
実は何かある可能性もあるし、何もない可能性もある。
だから、時には立ち止まって思考を、行動を一から考え直してみるのは大事だと思う。
ということで、ひとまず様子を見ることにした。
もちろん、何か行動を起こしたらすぐにぶっとばすことに変わりはない。
私は全属性使えて魔力量の多いチート魔法使いだからね。
決して、面倒だから我関せず……なんて考えていない。思考放棄なんてしていない。
みんなから話を聞く限り、悪魔は真面目で細かいところに目が行き届き、あまりミスがないタイプらしい。
美形、愛想が良い、気さくで親しみやすい、優しい、センスがいい──誰に聞いても好印象、高評価だった。
ただ、私に関することには少々行き過ぎるところが難点だ、と言っていた。
みんなが言うには、私に傾倒しているらしい。
……なぜ?
「いまのところみんなが言うようなアプローチはないし、そんな様子は見られないけど。どこかで会ったことがあるのかな?うーん……まぁ、夜に接触してみて危険性を孕む存在だった場合は、出て行ってもらおう。実力行使も視野に入れておいて、さっさと終わらせよう。てことで、気合を入れるためにスイーツを食べよう!」