スイーツ優先
エストレラ視点です。
お口は悪いですが心の中だけなので、ご容赦ください。
私はまだマルバ辺境伯領に帰っていない。
なぜかって?
学園パーティーで食事を楽しむ気満々で参加したというのに、馬鹿に絡まれておじゃんになったからだ。
入ったと同時に突っかかってこられた。
すぐ目の前に素敵な景色が広がっているのに……綺麗に盛り付けられたフィンガーフードが並んでいるのに……それを一口も味わうこともできずに退場させられた。
いや、退場したのは私だが、気勢を殺がれたから出たのだ。
「たくさん食べようと思って朝食を抜いてきたのに……はぁ。あの二人は何を考えて祝いの場であんなことをしたのかな。バロック家で行っている、もはや二人だけのお茶会に呼べば済むことなのに」
そう思い考えを巡らせる──目立ちたかったんだろうな。
動機も証拠も何もなく、考えもせずの手ぶらでの出来事。
みんなから拍手をもらって調子に乗って主役だ!と言わんばかりに笑顔で抱き合っていたから。
まぁ、それに助けられたからすぐに終わらせることができたのだけれど。
ちっ、まったく、面倒なことを……。
私は面倒事が嫌いだ。目立つのも嫌いだ。
だからパーティーでの騒動を速攻で終わらせ、すたこらさっさと姿を消した。
復讐だの何だのに興味は一切ない。
そもそもアーバンにも、ジュリエットにも興味はないのだ。
むしろ、なぜあのような事態に陥ったのかを理解できない。
だって、アーバンとは婚約もしていない。婚約者候補と言われてはいたが、戯言として聞き流していた。
私、ジュリエット、アーバンの親同士の仲が良いため浮かんだ話だと。婚約者候補という話は、私たちが生まれる前の昔の話だと聞いていた。
互いの子供の年が近く男、女だった場合の軽い約束──酒の肴だったのだ。
『王都に行っても(仮)的な適当なものよ』、『いや存在しないものだ』、と家族の言い分は少し違ったけど、私はいないものとしていた。
お茶会もとい挨拶も一度で、その後のお茶会も自由参加みたいだったから最初以降は参加していない。
ジュリエットの要望で、集まりはバロック伯爵家で行われていた。
お茶会スイーツは、同じ屋敷で暮らしているため同じだ。だから参加しなかった。
それ以降での接触は、ジュリエットとは時折食事が一緒だっただけ。
アーバンとは、彼がバロック伯爵家に足を運んだ際に、屋敷内でバッタリ会ったら軽く挨拶をする程度だった。
だから、あの二人がなぜ私とアーバンが婚約している、という考えに至ったのかわからない。ずっと一緒にいたジュリエットとならまだしも。
しかし、婚約者候補の話をあの二人がどう解釈していたのか、認識が甘かったのかはどうでもよかった。
だって、私は感謝しているから。
なぜかって?
あの二人の勝手な行動と勘違いによって、私にバツがついたからだ。
怒ることでは?と思うかもしれないが、結婚したくない私にとってはいいことだったから。
結婚したくないのであれば、結婚しなければいいと思うでしょう?
けれど家柄や方針などによって、貴族の婚礼は家のため生まれ持った宿命だといわれるところもある。恋だの愛だのによって結ばれる者は、この世界にどれほどいるのだろうな、と話を聞いたこともある。
恋だの愛だのにもとより興味はないけど、そういったしきたり自体も面倒くさいと思っている。
マルバ辺境伯家にそういったしきたりはないが、相手が格上であれば断るのは難しい。巻き込まれる可能性もあるのだ。
だから感謝している。
バツがついたということは、何かしら問題があったからとされている。破談に至った経緯などは関係なく、バツがついた時点で忌避されることだから。
縁談、結婚という面倒事がなくなった──万歳!!というわけだ。
ただデメリットを挙げるとしたら、ジュリエットからのおさがりがなくなってしまうことかな。
アーバンはウィスクム伯爵家の嫡男なので、ジュリエットが嫁入りすることになる。
つまり、バロック伯爵家からいなくなってしまうということだ。
ジュリエットは、一度着たドレスは二度と着ない。
外を出歩くのは嫌いだが、お茶会は好きだから商人を呼んではドレスを仕立て、宝石を買っていた。それを見せびらかすためと、噂話が好きだからお茶会には参加していた。
学園があっても、お茶会への参加は月に一度はあった。
つまり、月に一着は手に入っていたのだ。例え中古であってもお高く売れるそれがなくなってしまう。
「はぁ、懐が寂しくなっちゃうな。今後の寄付はどうしようかな。まぁ、他の稼ぎから出せばいっか。それはまた後で考えるとして、いまはスイーツ巡りに尽力しよう!ふふっ」
これが、私がすぐにマルバ辺境伯家に帰らなかった理由だ。
本来の予定では、学園パーティーの数日後に開催される王族主催の王宮で行われるパーティー、それに参加してから実家に帰るはずだった。しかし、学園パーティーでの事件が原因で行くに行けなくなってしまったのだ。
貴族は噂話好きで、光が如く情報が回るのが速い。
パーティーに参加すれば、嘲笑や同情の目を向けられることは行かなくてもわかる。
だから、病気という名目で参加しないことにした。
私は見世物になるつもりなど、これっぽっちもない。
つまりは王宮スイーツを楽しめない!──ならば、マルバ辺境伯領までの道中でスイーツを堪能しよう!ということだ。
──この行動が私の今後に大きな変化をもたらすことになるのだが、マルバ辺境伯家に戻るまで私は知る由もなかった。