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魔法について

少し長いですが、よろしくお願いします。



 今日はなんだか空気が重い気がしながらも、黙々と食事をしていた。

 食べ終わったらすぐに席を立とうと思いながら食事を続け、食べ終わったところで静寂に包まれていたダイニングルームに声が響いた。


「っ!?おいっ!」


 カリスお兄様が私、ではなく私の後ろにある何かを見て驚いた顔をしている。私も後ろを向いてみたけど、驚くようなことは何もなかったので姿勢を直した。


「まあ、エストレラは悪い子ね。人を泣かせておいて、無視をするような子に育てた覚えはないのだけれど」


「え?」


 お母様に言われたことを考えたけど、人を泣かせるようなことはもちろん、無視をしたことはない。

 理解できなかったので、首を傾げてお母様を見る。


「シヴァが泣いている姿なんて初めて見たわ。誰に聞かなくとも、泣かせたのはエストレラなのでしょう。先程のことが原因かしらねぇ。シヴァに何をしたのか、教えてくれるでしょう、エストレラ?」


 お母様が怖い。微笑んでいるのに、圧があってなんか怖い。

 悪魔がないていると言っているけど、やっぱり私には理解できないので正直に言う。


「お母様、彼が奇行に走ったとしても私は関係ありません。濡れ衣です」


「あらあら、エストレラが原因みたいよ?」


 お母様は壁の方をチラッと見て、私に視線を戻して言った。

 なぜ悪魔の変態的な行動が私のせいになるのか、と眉間に皺を寄せて言葉をこぼしたら、なぜか空気が固まったような気がした。


「動物か魔物か存じませんが、鳴き声を真似たことの原因がどうして私に繋がるのですか。食事中にそのようなことをした理由も、私は存じませんよ」


「「「…………」」」


 目を見開いて固まったお母様を不思議に思い、カリスお兄様の方に目を移した。

 カリスお兄様も目を見開いているな、と見ていたらカリスお兄様が席を立ち、私の方へ近づいてくる。私が座ったまま椅子を横に向けたので、カリスお兄様と正面に向かい合うような形になった。

 青褪めた顔をしたカリスお兄様は、私の体を下から上まで繰り返し、何かを確認するように見ている。


「どうかなさいましたか?」


「エストレラ、大丈夫か?どこか体に異変を感じたり、気分が悪かったりしていないか?」


 膝をついたカリスお兄様が私を見て言ったけど、またそれか、とほんの少しだけ辟易としてきた。カリスお兄様もエルシーも心配してくれるのは嬉しいけど、過保護すぎる気がする。


「何も問題ありません。私よりカリスお兄様の方が、顔色が優れないように思います。大丈夫ですか?」


「ああ、エストレラは優しいな。心配してくれてありがとう。はぁ……エストレラ、最近魔法を使ったりしたか?新しい魔法をかけたとか、魔道具を使ったとか……」


 新しい魔法という言葉に思わずびくついてしまったけど、バレたら面倒だと思い首を振る。


「何もしていません」


「……エストレラ、先程シヴァが鳴き真似をしていると言っていたが、正しくは涙を流している、だ。一度後ろを振り返っていたが、姿が見えていれば間違えないし、声も聞こえていれば間違えることはない。怒ってはいないからはぐらかさずに、お兄様に教えてくれないか?」


 たしかに、と今更ながらに気づく私は、なんて馬鹿なのかと思った。けど、悪魔も涙を流すことに驚き、そっちに反応してしまった。

 私の頭の中に悪魔が涙を流すという考えがなかったから、鳴き声の方にしか考えが及ばなかったのだ。だから、仕方がないと思う。


「涙が流れるんですね」


「そうだね、俺も初めて見た。それで、エストレラ……お兄様に教えてほしいな」


 決してはぐらかそうとしたわけではないが、カリスお兄様から逃がさない、と更なる圧をかけられた。

 目の前にいるカリスお兄様は、本当に心配そうな顔をしているので話すしかないな、と腹を括った。


「自分に記憶操作魔法をかけました」


「そうか。どうやって魔法をかけたのか、どうしてかけたのか教えてくれるか? シヴァに何かされたのか?何かされたのならば仕方がないな。何かされたのであれば、何をされたのかも詳しく聞かせてくれ。 記憶を消さずとも、嫌なことをされたら俺が仕返しをするからな。エストレラは優しいから仕返すなんてことはしないだろう?現にシヴァではなく、エストレラ自身に魔法をかけたのだから。だからお兄様が代わりに、それ以上に仕返すから教えてほしいな」


 微笑みながらさりげなく仕返し宣言をしているカリスお兄様に苦笑する。

 泣いている悪魔を気にかけるほど仲がいいのかと思っていたけど、さすがはカリスお兄様、私第一に揺るぎないのは本当にすごいと思う。けど、どう伝えるべきか……。


 ──みんなが悪魔に記憶操作魔法をかけられたから、秘密裏に悪魔を追い出したいがために人に魔法をかける前に自分に試そうと思った。

 ──悪魔に人間を害してはいけない、尊重するなどの記憶を植え付けられるかを知りたいがために自分に試そうと思った。


 まぁ、理由はまだあるけど……とりあえず、怖がらせたくなかったから悪魔の存在と魔法について何も言わず、みんなを守ろうと記憶操作魔法に挑んだことに変わりはない。

 けど、言えないよねぇ。

 守るためとは言っても、人の記憶を改竄することもどうかと思うし。

 非人道的行為で、それこそ悪魔みたいだと思うし、と頭を抱えた。

 うーん……よし、ごまかそう。


「彼には何もされていません。ただ嫌な夢を見たので、記憶を消せるか試してみたのです」


「なるほど。だが、シヴァが関係していることに変わりはないだろう?でなければ、いまこうしてあいつが泣いている状況に繋がらないからな。接触できないこともそうだ」


「接触できない?」


 やはりだめだった。ごまかしても悪魔から離すことは無理だよね。

 実際、悪魔で試して姿が見えず声も聞こえずという状況を作ってしまったわけだから……と悩んでいたけど、ここでまた新たな情報が耳に入った。

 どういうことかと首を傾げてカリスお兄様を見る。


「ああ、エストレラがダイニングルームに入ってきて席に向かって歩いている時、シヴァがエストレラの前に立ったが、ぶつかることなく何もないかのように通り抜けたんだ」


「へぇ!おもしろいですね。まさか触れないとまで作用するとは、不思議です」


「ぅぉお、おもぉ、しろぉ、い゛ぃ……うう゛、酷いですエストレラ様。わたくしは常々エストレラ様しか見ていないというのに」


 悪魔の声が聞こえない私は笑っていたが、悪魔の声も姿も目にしている人達は同情した目で悪魔を見ていた。

 悪魔を横目で見ていたのであろうカリスお兄様は、私に視線を戻して魔法について聞いてきた。


「それで、記憶を操作する魔法と言ったが詳細を教えてほしい。エストレラも接触できないことを疑問に思っているのだろう?一緒に考えよう」


「そうですね。こう頭に指を当てて──」


「実際にしなくていい!説明だけでいいから!」


 どうやって魔法をかけたのかを説明するために、右手の人差し指をこめかみに当てた。

 けど、実演と勘違いしたカリスお兄様が止めに入り、カリスお兄様の両手でしっかりと私の両手を握られてしまった。

 戸惑いながらも、カリスお兄様を安心させるため手はそのままにしておいて話した。


「えっと、頭の中に彼の姿と声を思い浮かべて、少しずつ姿を見えなく、声を聞こえなくして最終的にはそこには何もなかったようにイメージして魔法をかけました。そうしたら、次の日の朝から現実にも魔法の影響が生じたようで、姿は見えず声は聞こえずの現状に至ったのです。つまり、記憶ではなく存在がなくなり、記憶操作魔法は失敗に終わってしまったのです」


 話しながら魔法の失敗に悔しく思い、しゅんと落ち込んでいたらカリスお兄様が悪魔とは関係のない明後日の方向へといってしまった。


「エストレラが魔法に失敗するなんて珍しいな。だが失敗は誰にでもあることだ。魔法を一度で成功して編み出すエストレラは、本当にすごい子なんだよ。 それより、失敗したことでどこか体調に異変などないか?頭に直接魔力を流し込んだのであれば、不安しかない──治癒(ヒール)……どうだ?大丈夫か?」


「治癒魔法をかけてくださりありがとうございます、カリスお兄様。何度も申しましたが、心配せずとも何も問題はありませんよ」


 苦笑しながらカリスお兄様を見たが、顔をしかめて私を見ている。心なしか握られている手に力が入った気がした。


「エストレラ、下手したら身体に悪影響を及ぼし、精神崩壊なんてこともあったかもしれないんだ。シヴァがエストレラに触れないことを俺が言わなければわからなかったように、どのように作用するかわからないから、今後記憶操作魔法は禁止だ。向上心があることはいいことだが、エストレラは安易に自分の身を危険に晒してしまっている。……魔法は便利だが、危険であることを理解してほしい。一応クギを刺しておくが、今回のように自己診断はよくない。大したことはないと放置するのは危険だ。俺を心配させたくないのなら、体調が優れない時も新しい魔法を試したい時も話してくれ……いいね?」


 わかったつもりで魔法をかけたけど、私が思っている以上に危険視するべきことなのだと思った。

 今回のことで、カリスお兄様とエルシーの異常なまでの心配性と過保護にも理由があり、何度も聞かれるほどに不安にさせたことを理解し深く反省した。

 決して、いまなお笑顔で私を見ているカリスお兄様の圧が怖いからとかではない。


「申し訳ありませんでした」


「エストレラは素直でとてもいい子だね。それで、結局どんな夢だったかを聞いていないが……教えてくれるかい?」


 謝るべきだと思い、俯いて謝罪の言葉を口にしたら、カリスお兄様に褒められ頭を撫でられた。そして、終わりかと思いきや、またも理由の方に戻ってしまった。

 まぁ、嫌な夢を見たのは本当だし、それを話そうと顔を上げる。


「迫られ纏わり付かれる夢です。気持ち悪く耳障りだと思うほどに、私について話すのです。存在自体がうるさいと思ってしまったが故に、記憶ではなく存在を消す魔法がかかったのかと思いました」


「わたくしはエストレラ様の夢に出るほどに、見た夢を鮮明に覚えているほどに大きな存在だということですね!グフフッ」


「「「……」」」


 歓喜している悪魔の声が聞こえない私は、正直に言いすぎたために静かなのだと身を縮めこませた。

 とりあえず、カリスお兄様の発言を待とうと口を結ぶ。


「……なるほど、ならば仕方がないな。今回のことは、あって当然なことだったんだ。エストレラは何も悪くない。 怖かっただろう?気がつかなくてすまなかったな。エストレラ、今日は一緒に寝ようか。そうすれば嫌な夢を見ずに済み、もしかしたらお兄様が夢に出て、安心安全で楽しく幸せな夢を見られるかもしれない。夢の中でもエストレラを守るよ」


 にっこりと微笑みながら私の頭を撫でているカリスお兄様が、なぜか少し怖く見えた。

 なので、はいもいいえも言えず、とりあえず笑みを返した。


「それで、エストレラがよければどんなことを言われたのか教えてくれるかい?教えてくれれば、より安心できるのだが。 俺は危険極まりないシヴァ(変態)をエストレラに近づけたくはないが、あんなのでも一応使えるからな。エストレラの眠りを妨げ、夢ですらも変わらないのであれば考える必要がある。俺が大事なのはエストレラだから、気に障るのであれば外して、護衛を増やせばいい。従者はエルシーだけでも十分だからな」


「えーっと……」


 いまだ私の頭を撫でているカリスお兄様を安心させたいのは山々だけど、悪魔の変態的発言を教えて更に心配させてしまう可能性があるので、言うべきか迷ってしまい言い淀んでいた。

 そうしていたら、思わぬところから声を掛けられた。


「発言してもよろしいでしょうか」


「ん?何か知っているのか、エルシー」


 そう、言葉を発したのはエルシーだ。でも、エルシーにも内容までは話していない。

 目を瞬いてエルシーを見るけど、エルシーは私ではなくカリスお兄様に目を向けて話した。


「カリス様、エストレラ様のお耳を汚すといけませんので、しっかりとエストレラ様のお耳を塞いでくださいませ」


「わかった」


 エルシーが真剣な顔をして言うので、カリスお兄様も頷いて私の方を見る。

 何を言うのか不安ではあるけど、耳を塞いだところで漏れ出るだろうと思い、とりあえず受け入れ態勢を整えた。

 けど、私の考えの上を行く行動をカリスお兄様が取った。


「ひゃあ!」


「ははっ!可愛いなぁ、レラは。 よし──沈黙(サイレンス)


「え?」


 あんまりなことに呆然としてしまう。

 立ち上がったカリスお兄様が右腕を背中に、左腕を膝裏に当て私を横抱きに持ち上げた。

 私を持ったままカリスお兄様は私が座っていた椅子に座り、横抱きのままかと思いきや後ろから抱きしめる形で私をカリスお兄様の開いた両足の間に置いたのだ。


 そして、エルシーの言う通り、魔法で音を遮断して本当にしっかりと塞いだ。

 魔法をかけたのなら、私の耳にカリスお兄様の手を添える必要はないのでは?と思う。

 ……言わないけど。

 そもそも声が出ないのだから、伝えるには私がカリスお兄様の手を掴んで下ろさなければならない。手の置き場は膝だろうか、と悩みながらエルシーを見る。


 私はこのままで話すのかと驚いたけど、素知らぬ顔でエルシーは頷き口を動かしていた。

 こうなったら他のことを考えるしかないな、と眉間に皺を寄せながらエルシーを見ていた。そして、閃いた。


 あの悪魔のせいで記憶操作魔法にばかり目を向けていたけど、禁止となったいまどうするべきかを考えていた。

 悪魔を追い出すのは難しくなり、私が我慢しなければならないことに変わりはない。

 せめてうるさいのだけでもなんとかしたいと頭を抱えていたけど、その答えをカリスお兄様とエルシーがくれた。


 それは、沈黙(サイレンス)だ。

 音をなくせば声は聞こえない。

 まぁ、話せなくなったり詠唱魔法も使えなくなったりとかするけど。


 私は無詠唱でも魔法は使えるし、実家では魔法を極力禁止されているから使えなくても別にいい。

 話せなくなるのは……バレたら何か言われるかもしれないから、耳栓をしているイメージで魔法をかけてみよう。そうしたら声は出せると思う。


 うーん、会話するには読唇術を習得するしかないか?

 私は心長閑に過ごしたい。

 あのグフフッという笑い声も、誉め言葉っぽい変態めいた言葉も、聞こえなくなるのだ。

 そんなことで済むなら別にかまわない。


 二人はそれを私に教えてくれたのかな、と顔を緩めて呑気に考えていた私は知らなかった。

 私の耳を塞いでいるこの時、部屋は不穏な空気に包まれているということを。



エストレラは悪魔のせい、と言っていますが、責任転嫁だと理解しています。ただ魔法の失敗やバレてしまったことに苛ついているだけなので、スイーツを食べれば心の中で反省します。

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