悪魔の話
※うじうじ、ぐずぐずしています。不快に思うかもしれませんので、心してお読みください。
帰宅したのはいいけど、悪魔の所在は不明だ。屋敷に悪魔の姿は見当たらなかった。
屋敷の中を歩き回ったり、探索魔法を使用したりしてみたけどいなかった。……みんなに悪魔がどこにいるかは聞いていないけど、とりあえず、見た限りではいなかった。
なぜ聞かないのかって?
だって、何か聞きづらいというか、私が悪魔を気にすること自体が稀有なことだから。
私が悪魔について聞いて、お兄様に報告がいったらどうなるか。
……いや、本当にどうなるのかな。
鬼気迫るであろう事情聴取が目に浮かぶので、想像を消し飛ばす。
帰郷してからすぐは、喧嘩を理由にみんなから見た悪魔を聞けたからよかったけど。
お兄様にバレずにもう一度、しかも居場所を聞くなんて無理難題すぎる。
はぁ、街に降りて悪魔に関する本とか探してみようかな。……そんな本あるのかな。
買って変な噂がたったら嫌だなぁ。
悪魔信仰とか召喚とか、異端者だと誤解されたら困る。
……冒険者の姿ではなく、また別の姿を作って行こうかな。認識阻害もかけておこう、そうして自分に魔法をかけて街の本屋を回った。
結果、絵本しかありませんでした。
まぁ、普通に考えれば悪魔の本がお店で売っているわけがないよね。危険にしかならない存在だからね。
なら本格的な本を探すのかと言われれば、答えは否だ。
先程も言ったように、噂でも立ったら困る。
そして、何度でも言うけど面倒事は嫌いだ。
──あぁ、こんな時に記憶操作の魔法を使えたら便利なんだな、なんて思うけどどうしようか。
──後でいっか、使ったことないし先に絵本を読もう、と本を探し買うことに疲れた私は、読む前に気力がなくなりながらも部屋に戻って本を手に取った。
絵本のストーリーは、悪魔は悪戯っ子で、人を唆したり惑わせたりすることが好きで、誘いに乗って関わってしまったら最後、悪魔に食べられてしまう、という話だった。
悪魔に囚われたまま永遠に生まれ変わることはない、と子供用の絵本にしてはだいぶグロテスクな内容だった。
他には、悪魔の誘惑に打ち勝ったことで神に認められ、天使となって悪魔を倒す話。聖剣に選ばれ、勇者となって悪魔を倒す話。神に選ばれ聖女となって悪魔を封印し、聖女は生涯を神に捧げた話。
うーん、倒せるけど特別な人間にしか倒せません、みたいなストーリーばっかりだね。
悪魔が人間を食べたら強くなるとか、ただの人間では敵わずすぐさま復活するとか。
……あれが幻覚じゃなくて本物だったとしても、復活するなら私の攻撃は意味なかったってことだよね。
気にしなくてもよかったのかも?
「…………」
はぁ、憶測にすぎないからかな、食欲がわかない。
人間、ではないけどあれだけ人間に近い姿の魔物なんて見たことないし、人間を殺したことなんてないからかな……はぁ。
その日の夜は寝つきが悪いのに加え、悪魔が泣きながら私に縋り付いてくる、という嫌な夢を見た。
「おはようございます、エストレラ様」
「……おはよう、エルシー」
「どこか体調が優れませんか?お医者様をお呼びいたしましょうか」
「大丈夫。……気持ち悪い夢を見ただけだから」
悪魔が這い蹲りながら私の足を掴んで、引っ張られて転んだ私の上に乗っかってきたり、全裸で私の前に立って自分の美点を笑顔で話したり……ああ、思い出しただけで吐き気がする。
いろんな悪魔を夢で見た今日、朝一番に聞いた声と見た顔がエルシーであったことに、心の底からほっとした。
「なるほど、夢見が悪かったのですね。心を和らがせるために、ハーブティーをお持ちしましょう。 それと、念のためお医者様に診ていただきましょう。エストレラ様に何かあったら、マルバ家は地に落ちます」
「言い過ぎでは?……ふふっ」
いつもは目を開ければ目の前に悪魔の顔があるけど、今日は何もいなかった。いや、ないのが普通で平穏なことなのだけど。
部屋を見回しても悪魔はいない。
何とも言えない違和感があったけど、エルシーのおかげで少し元気が出た。
その後、本当にお医者様を呼んでいたようで、今朝はベッドから降りることを許されなかった。お医者様には問題ないと言われたけど、念のため午前中はベッドから出ないように、とエルシーに言われてしまった。なので、ベッドの上で大人しく昨日買った悪魔の絵本を再び読んでいた。