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デート

※残酷描写があります。変態がいます。ご注意ください。



 何時頃からかはわかりませんが、エストレラ様がお部屋から抜け出しておられました。

 木魔法か創造魔法か何かでしょうか、エストレラ様の影武者はお部屋におりますが、わたくしにはわかります。


 エルシーは気がついているのかどうかわかりませんが、小声で名前を呼び、目配せで席を外すことを伝えます。


「エルシー」


「……」


 ふむ、気がついているかもしれませんね。

 返事代わりに数秒目を瞑りましたし、わたくしが離れることに疑問を持ちませんでした。

 ……ただ興味がないだけかもしれませんが。


 エストレラ様のお部屋を退出し、すぐさまエストレラ様の香りを頼りに探します。

 ──マルバ領地にある森の中でお姿を確認いたしました。

 男性冒険者のお姿をしていらっしゃいましたが、エストレラ様に間違いございません。

 好きな方の体臭は、どんな香水よりも香るものですからね。

 グフフッと笑いながら足取り軽く、エストレラ様についていきます。


 先程からお声をお掛けしておりますが、反応はございません。

 何かお気に障ることを申してしまったのでしょうか──


 エストレラ様が神であることは、いつも申しております。

 片腕をなくしたところで、恐怖するような方ではございません。

 気にせず生やしてしまうでしょうか。切り落としたわたくしは、しばかれるでしょうか……ほう、いいですね。


 エストレラ様にお仕置きをして(ご褒美を)いただけるだけではなく、痛みによるお声やお顔を見られ、片腕になれるのであれば、わたくしにとってはいいこと尽くしです。

 エストレラ様の血しぶき(恵みの雨)を全身に、特に顔に浴びたいですね。グフフッ。


 ふむ、やはり変装がバレてしまったことがショックだったのでしょうか。

 照れたお顔を隠していらっしゃいましたからね。エストレラ様だとわかったのは、わたくしが初めてですから。はっ!一番だったからファンサービス()独り占めさせて(贈って)くださったのでしょうか。グフフッ。


 エストレラ様のことを考えながらも、しっかりとついて行きます。

 すると、エストレラ様が急に強く魔力を込めていらっしゃいます。さっそく魔法を見せていただけるのか、と歓喜してエストレラ様を見つめました。

 魔法だけではなく、どのような表情で魔物と対するのかを見たいので凝視します。


 エストレラ様が睨むように少し離れた、向こうの地面を見ていらっしゃいます。

 エストレラ様らしからぬ、あまりにも刺々しい顔つきを不思議に思い、視線を追って見れば噂の魔物がおりました。


 いけない!とエストレラ様をお守りするべく、すぐさま魔物との間に大手を広げて立ち塞ぎました。が、魔物と共に魔法をかけられ神に召されました。


 フッ、フフッ、グフフフフ。

 まさかこの俺が一撃で召されることになるとは……さすがはエストレラ様。


 エストレラ様をお守りするためだったとはいえ、魔物の方に飛び込んだのは正解でしたね。

 危うくあの魔物にエストレラ様の魔法を独り占めされるところでした。


 エストレラ様に囲われるように逃げ場などないよう結界に覆われ(抱きしめられ)、強く思いをぶつけられたような爆発による鋭痛(衝撃)業火の様に激しい炎(極熱)を感じました。

 嫌われているとはいえ、これはさすがに贅沢が過ぎます。


 あの魔物はエストレラ様だけではなく、マルバ家からも嫌われております。

 なぜかと言いますと──エストレラ様が幼き頃、アドミラルが率いる騎士とカリス、アンサスと共に森の探索に行かれました。


 騎士は少し離れた場所を、エストレラ様を囲うように歩いて周囲を警戒しておりました。

 外ばかりに目を向けていたため、内にいる魔物に気づきませんでした。

 いえ、気づいている者もおりましたが、害のない魔物だからと気にせず甘く見ていたのです。


 その後に起こるエストレラ様の行動を、予測できる者など誰もいませんでしたから。仕方のないことだと言えば、仕方ないと言えるでしょう。


 エストレラ様は、石に擬態していた魔物に気づかず近づき、危険を察知した魔物の悪臭攻撃をもろにくらってしまわれたのです。

 アドミラルもカリスもアンサスも、エストレラ様に前を歩かせていても目に見える範囲で好きに歩かせていらっしゃったので、誰も反応できませんでした。


 皆すぐさまエストレラ様に近づき、安否を確認しました。

 鼻を塞ぎ涙目で見つめるエストレラ様のお姿は大変愛らしかったです。

 ──そう、可愛らしかったのですが、その後がいけませんでした。


 その場にいた者は嫌な顔一つせず、普段と変わらずエストレラ様と接しておりました。しかし、洗浄魔法をかけてみても、水魔法で水を浴びてみても、臭いが落ちることはないことをエストレラ様は知りました。


 そのことにショックを受けたエストレラ様は、『この嫌な臭いが消えるまで帰りません』、と姿を消されてしまいました。この時すでに転移魔法を使えたエストレラ様を探すのは、至難の業でした。


 結局、マルバ家の騎士が総力を挙げて捜索に尽力しても、エストレラ様を見つけ出すことはできませんでした。魔物の臭いが消えたとされる六日後に、自らの足で屋敷に戻られました。


 皆エストレラ様の帰宅に安堵しましたが当然、叱責、号泣、喜悦──その場は混沌としておりました。そんな中、目をウロウロさせながらも戸惑いの表情を隠し、冷静さを保っておられたエストレラ様のお姿は浮いており、笑ってしまいました。


 その際、『魔法ではなく手でしっかり洗えば臭いは落とせます!』と叱られ驚いていらっしゃいました。が、えへへと微笑みながら、『六日間のサバイバルは楽しかった』などと頓珍漢なことをおっしゃられました。


 それをお聞きになったアドミラルとルブロプレナには、こっぴどく叱られ魔法とスイーツを禁止されていらっしゃいました。


 カリスとアンサスには、禁止期間中は纏わり……いえ、ご兄妹仲よくずっと一緒にお食事も添い寝もされていらっしゃいました。

 散歩がなければ軟禁と言える状態でしたね。

 その散歩も手を繋いだまま、離した場合は強制終了、という何とも言い難いエストレラ様の境遇に同情しました。


 エストレラ様は、お約束をきちんとお守りしていらっしゃったというのにまったくもって羨ま……恨めし……まったくもって酷いものですね。


 お仕置きの中には、身の回りの世話を従者に任せることも含まれておりました。

 エルシーたちに身を任せたそのお姿は当然愛らしく、毎日髪型もお洋服も違うので雰囲気も違います。

 ああ、わたくしもその場にいればエストレラ様を我が物のように好きに……グフフッ。


 コホン──このエストレラ様行方不明事件を起こした原因である魔物はマルバ家の天敵とされ、エストレラ様が帰郷する際には必ず、何度も見回りをして殲滅することを皆で誓いました。

 ちなみに、エストレラ様が共におり、遭遇した場合はエストレラ様に抱きつくことも。


 ああ、これは誓わずとも誰もが考えることなので、口にはしていませんが誓っているも同然なのです。

 言えば変態となり近づくことを許されず、護衛から外されるのが目に見えているから口にしないだけです。


 溜息をつきながら身なりを整え、どうするべきかを考えます。


 はぁ、アンサスの見回りが甘かったことを報告しておかなければなりませんね。

 事件を二度と起こさせないために、探知魔法を覚えるのは絶対とされていたはずですが……。

 まったく、せっかくのデートが誰かさんのせいで最悪です!


 ですが、わたくしよりもエストレラ様の方が不快な思いをされたでしょうから、スイーツを買い集めてから戻りましょうか。

 普段エストレラ様が好んで食べている物と同じ物を体内に入れて好むスイーツを把握し、屋敷の奴らと徹底的に研究しているのでいい土産を選べるでしょう。

 では、人間界に戻りましょうか、善は急げです。



マルバ辺境伯家の騎士団に入るためには、探知魔法が絶対必要です。いえ、なくても入団できます。強ければ可能ではあります。

あとは身体強化、洗浄魔法など、特に治癒魔法があれば有能とされ、エストレラの傍に仕えられる可能性が高いです。魔法なしの体術も優れているとなおよしです。

これを聞けばおわかりなるかと存じますが、エストレラ様大好き組のエルシーとシヴァは使えます。

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