嫌いな魔物
※残酷描写があります。ご注意ください。
さて、私はいまどこにいるでしょう。正解は──森の中にいます。
なぜかって?悪魔がうるさいからです。
私が動けば纏わりつき(従者なので当然です)、グフグフ笑い?をこぼして、存在がうるさいのだ。毎日いる(従者なので当然です)からストレス過多だよ。
なので、魔物退治という名のストレス発散のために森に来ました。
抜け出して大丈夫なのかって?
もちろん、分身を部屋において来ている。いやぁ魔法って便利だね。あははっ。
何が出るかな……。強い魔物だとありがたいなぁ。耐久性があった方が魔法をぶっ込むことができるし。
いや、たくさん出てきてたくさん倒した方が発散するにはいいかな、とこれから出会うであろう魔物に期待しながら森の中を歩く。
「エストレラ様は冒険者だったのですか? 男性に変装をしていらっしゃいますが、幻覚魔法ですか?それとも、魔道具を使用していらっしゃるのでしょうか?」
……何か煩わしい声が聞こえた気がするけど、気のせいだよね。
空耳ってやつか……うーん、お医者様に診てもらうべきかな。
でも、みんなが大げさに取ったら困るからな、と迷いながらも声を無視して歩き続ける。
「Sランクでしょうか。いえ、神にランクはありませんね。あなた様に上など存在しません。 はあ、先日の転移魔法も素晴らしい魔法でした。わたくしのための魔法……グフフッ」
恍惚とした表情で立つ悪魔が一瞬見えたけど幻覚魔法かな、私にかけられるってことは特異な魔物とか強い魔物かも。初めましてかな、新種かも!?と胸が躍り足を止める。
「目にゴミでも──いえ、わたくしに冒険者だとバレてしまったが故の照れ隠し?──はっ!?もしや、わたくしにハートを贈ってくださっているのでしょうか!? あぁ、あなたが片腕であればわたくしが──右腕?──いえ、片割れ? グフフッ。腕をなくしてしまいましょうか。 ああ、魔法だけではなくファンサービスまでわたくしだけに贈ってくださるとは……あなた様は無上の喜びを与える女神なのですか!?グフフフフッ」
足を止め改めて辺りを見回したら悪魔が視界に入ったため、指でぐりぐりと目を擦ってみた。
うーん、両目を擦っても意味ないな。
……!?まさかあの魔物が新しい魔法をかけられるようになったの?!と目を凝らして警戒する。
私が大嫌いな魔物が木の根元にいる……殲滅せねば。
魔物を睨みつけて、手に魔力を込める。
私の前世で因縁のある、悪臭を放つ奴に類似している魔物──ガメムシ。
あれは瞬殺しなければ、鋼のように固い甲羅に亀のように頭や手足を隠して悪臭を放つ。悪臭をくらえば最長七日間という長い期間悪臭を残し魔法をかけても臭いが取れない、という最悪な攻撃をする魔物なのだ。
魔物が放つ悪臭は、外敵から身を守ったり仲間に危険を知らせたりする役割があると考えられている。刺激を与えなければ害はない、とされているけど私にとっては天敵だ。
瞬殺後に体をつぶしても臭いが残ってしまうので、塵一つ許さない爆発魔法で倒す。
もちろん、森の中での火魔法の使用は危険極まりないので、結界魔法もかけて閉じ込めて倒します──行きます!と気合を入れて魔法を放った。
「冒険者としてのエストレラ様の魔法も、堪能させていただきたく存じます。はっ、さっそくですか?!あれは!エストレラ様──!!」
──いま、悪魔がいた気が……いや、もとから幻覚魔法で見えてはいたけど。
結界魔法をかける前に魔物との間に立ち塞がって、一緒に結界内に入っていた。
そして、すぐに放った爆発魔法をくらっていた気がする……。
幻覚だし実体はないはずなのに、魔物を守るように飛び込んでいた。
魔物を倒したからか、悪魔の姿は見えなくなった。
念のため、索敵魔法をかけて周辺を探る。
今日は森林セラピーも兼ねていたから、のんびり散歩気分で探知魔法をかけていなかったのだ。
──何もいないね。
あの悪魔は本物じゃないよね……悪魔って探知魔法にかかるのかな?
うーん、来たばっかりだから昼食の時に帰って確認しておこう、と一応気にかけながら再び森の中を歩き出した。
ガメムシはリクガメとカメムシを合体した感じの魔物です。他にも使われている魔物かは存じませんので、オリジナルかどうかわかりません。あの臭いは本当に嫌いです。
シヴァにとってエストレラがすることは何でもかんでもファンサに値するので、屋敷ではもはや突っ込む人はいません。
貴族であること、エストレラであることがバレないよう髪の色も瞳の色も性別も変えるという、念には念を入れての魔道具の装いがバレました。初めてのことだったので、バレたとは思わず幻覚魔法を使える魔物の仕業だと思ったエストレラでした。