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狂気 33

 次のイルゼの動きは姿勢が低く拳を強く振り上げられる、アッパーするような姿であった。


 それは何度もアナーヒターの接近中に見せたブラフの動きでもあった。だが、何かが違うことにアナーヒターは気づいており、杖を持つ両手の力を強める。


 彼女がイルゼから察知したもの……それは殺意。


 ここで攻撃する、絶対に仕留める。そのような覚悟、決意がイルゼの眼に込められている。その通常は気づかないような変化にアナーヒターは気づく。それは戦闘経験から来るものなのか。それとも魔術を使って戦う者、戦士としての才能からなのか。はたまた術聖だからか……。


 それはきっと本人にも分からないことだろう。


 ただ、ここで重要なのはイルゼがとうとう攻撃して来るということ。そしてアナーヒターがそれに気づくことが出来たということである。


 (気づかれたか!?……いいや、問題はない。このまま真っすぐ行く!カウンターぶち込まれるよりも速く、攻撃を当てれれば良い!!!)


 一瞬、攻撃を止めるか迷ったイルゼであった。しかし、すぐさま迷いを切り捨てる。


 (このまま来るのね。相変わらず凄まじい速さ。でも、完全に見切れている!あとはイルゼの攻撃タイミングに合わせてカウンターを入れるだけ!!)


 アナーヒターの思考にも迷いはない。


 今なら避けることだって出来る。だが、それはしない。カウンターで一撃を入れてこの戦いを終わらせる。それだけを考える。


 そして、とうとうイルゼはアナーヒターへと拳が届く攻撃範囲内に入っていく。


 彼女は構えている通り、下から上へと魔力を纏わせたその拳を強く突き上げ、アナーヒターの顎を目指して素早く向かっていく。


 それに対し、アナーヒターは流水を絡ませた杖で拳をさけるように上から下へと突き下ろす。


 バシャリッ!と飛沫しぶきがあがる音が強く周囲に響く。


 流水と、拳に付着した血液が宙を舞い、大地へと散っていく。


 お互い、全力の攻防であった。その結果は―


 「ごフッ!」


 アナーヒターの喉に熱いものがこみ上げてくる。そして、一気にそれは口から吹き出される。それは真紅で、彼女の体を巡る大事なナニカ。


 どうやら少しばかり拳の行先であった顎から逸らすことは出来たようだが、その拳が右胸へと直撃してしまった。と言っても、肩と胸の中間辺りだ。それでも、凄まじい威力の拳を喰らったことには変わらりなく、彼女はその強烈な痛みと肉体に負ったダメージで後ろへ倒れそうになる。


 倒れないように、足を一歩、また一歩と後ろへ下げていく。


 (魔術で痛覚遮断させているのに……なんでこんなにも…体に痛みが響く!)


 やはり、イルゼは何かしらの固有技能持ちと考えた方が良いだろう。


 頭は意外にも冷静で、冴えていた。だが体は言うことを聞かない。


 その様子を見てイルゼは


 「はははッ、しっかりとダメージを負った―」


 と嗤って叫ぶが


 「ッ!」


 イルゼも苦悶の表情へと変化し、振り上げた右腕を抑えようとする。


 しかし、


 「あッ、あァ!?」


 彼女は遅れて気づく。


 腕がありえない方向へと曲がっている。関節が外れているとか、そんな次元の話ではない。もう、医療知識と技術を持つ者しか治せないような領域へとその負傷はいっていた。

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