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狂気 28

 そうして、どんどん空で暴れ狂う龍に向かって飛んでいく兵士に冒険者。そして多くの魔術師たちが地上から魔術を放っていく。


 動けない今、抵抗出来ない化け物は問答無用で袋叩きになっている。


 そんな中、一人で必死に術を発動させている魔術師が一人。


 それはエルドであった。


 彼の足元には大きな魔法陣が魔力で描かれていた。そして、中の図形や数字、文字はまるで機械の歯車のように互いに呼応して動いている。


 そして、右手では杖を持ち、左手では頭を抱えていた。


 「はぁ……はぁ……!」


 顔は苦しそうな表情で、今にも倒れてしまいそうな雰囲気だ。顔からはびっしょりと汗が噴き出ており、目は赤く充血している。


 そして彼の身体からはものすごい量の魔力が放出。魔法陣を通して消費されていく。


 (杖の力で残った魔力を全て増幅させて…あとはまだ杖にも蓄えていた魔力が残っているし―)


 そのように思考している最中、ぽたり、ぽたりと何かが垂れて地面に落ちる。


 それは赤い液体。


 鼻から鉄の匂いしかしなくなる。また、一部は汗と混じり、口の中へと入る。とても気分が悪い。


 だが、問題はない。


 (俺があの化け物を倒す必要はないんだ。ほかの冒険者と、兵士の人たちがなんとかしてくれる。ここで俺が今、必要なことは術の維持!あとは踏ん張るだ…け……)


 ふらり、と一瞬、意識が遠のく。


 がくり、と膝が折れそうになる。


 が、彼はもう少しの所で耐え、態勢を立て直す。


 だが、限界は近い。


 (諦めるな!きっと、トーゼツさんだったら諦めたりはしない!たとえ肉体が果てても、俺の心が果てさえしなければ―!)


 しかし、何度も意識が途絶え、そのたびに態勢を立て直す。


 彼はぼやける視界の中、未だ空中浮遊している化け物を見る。


 ソレの身体はボロボロで、魔術や魔力の込められた矢などであちこちから攻撃を受けている。また暴れ狂う状態に必死にしがみつき、剣や槍で斬りかかる者たちもいる。


 もちろん、暴れ狂っている化け物の上なんて足場として安定しているわけもなく、そこから落ちていく者も少なからず居た。しかし、化け物の身体は穴だらけで、山中の獣道のようにでこぼこになっていた。


 化け物の傷口からはぼこぼこと黒い液体と泡が吹き出し、傷口を塞ごうとするのだが回復させまいと次の攻撃が飛んでくる。


 もうすぐ、あの化け物は落ちる。


 (耐えろ……耐えるんだ……!)


 杖にしがみつき、ガンガンと痛みが響く頭。脳が情報処理に追いつかず煮えたぎろうとしている感覚があった。だが、術を維持しなければ!


 そんな中


 「やはり、ここだったか」


 後方から聞こえてくる謎の声。


 それは一人のエルフの男。


 だが、エルドの視界はもう何も見えない。ただ、頭の中を痛みで支配されている中、その声だけがハッキリと聞こえてくる。


 「ああ、反応はしなくて良い。これほど大規模で、派手にやっているんだ。魔力の痕跡をたどれば何処に術者がいるのか。ある程度、位置を把握できる」


 しかし、あの龍を倒そうと今はあちこちで魔術師が活動している。ゆえに、この街には多くの魔力で溢れている。その中でエルドの魔力だけを区別、感知して居場所を見つけるのは至難の業。


 それほどまでに優れた術師、あるいは熟練の術師なのが分かる。

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