狂気 26
剣士は「はぁ、はぁ!」と死にかけたことによって生まれた緊張と、助かったことで一気に心に溢れる安堵で荒く呼吸しながらも、上手く地面に着陸する。
「大丈夫ですか!?」
それは、杖を持つ女。きっと彼女がこの剣士の仲間であり、バフをかけていた魔術師であろう。また、その隣から一緒に駆け寄ってくる槍を持った男もいた。
どうやら三人パーティの冒険者のようだ。
「あ、あぁ、なんとか、な……」
額から滝のような冷や汗を流し、少しでも荒れた呼吸を戻そうと深呼吸する剣士。そして、彼は魔術師へと尋ねる。
「君があの…魔術を発動、させたのか?」
先ほどの詠唱は男の声だった。だが、念のために聞くが
「い、いや。私じゃないです!」
とわかっていた返答が来る。
「だよね。じゃあ他の冒険者か?」
今、冒険者に兵士、全ての戦える者がこの騒動を終わらせるために動いている。自分以外にもあの龍を攻撃している者を何人も見ている。もしかしたら、別の冒険者パーティの魔術師が助けてくれたのかもしれない。というか、その可能性しか考えられない。
「しかし、中級レベルでありながらかなりの効力。きっとオリジナルに開発された魔術でしょう」
今なお光に拘束され続ける化け物の姿を見ながら女の魔術師は言う。
「だが、それほどの魔術師、この街にいたか?」
槍を持った男は記憶を辿りながら、考える。だが、やはりこの街にそのような魔術師が居た記憶はない。
「まぁ、この国は重要な交易地点。いろんな商人に旅人がやってくる。冒険者の入れ替わりも激しいし、そう珍しいことじゃないだろう?」
ある程度、呼吸が落ち着いた剣士が冷静に自分の考えを述べていく。
そうしていると、「中級魔術〈光縛〉!」と続けて同じ術の詠唱が聞こえてくると、地面からぬるぬると光の触手が空に向かって伸びていく。しかも、その数は凄まじいものであった。
この恐ろしく、嫌な夜の闇を切り裂くように辺りを照らすその光の触手は、どんどん龍の姿をした化け物へと向かっていき、ソレの体に絡みつく。
「あっ、アァ!!キィぃぃィィぃィぃぃ!!!!」
体の自由が効かず、どんなに暴れてもその触手が上手く千切れないこの状況に怒りと、焦り、そして自分をこんな目に合わせている術者に対する憎しみを込めた咆哮を放つ。
それはビリビリと空気を通して、聞いた者を震わせ、大地は揺れていく。
「誰だが知らんが、今がチャンスじゃないか!?」
剣士がそう言って女の魔術師へと目線を送る。その反応に、肯定するように頷き、再びいくつかの肉体強化系の低級魔術を無詠唱で素早くかける。
そして、彼は地面を強く蹴り上げ、もう一度、高く飛び上がり、龍の位置へと到達する。
「俺も行く、頼めるか?」
槍士もまた、女の魔術師にバフをかけるようにお願いし、剣士と同じく肉体強化を受ける。そうして彼もまた強化された脚力を使って高く登っていくのであった。




