狂気 25
それは少しばかり時を遡る。
ローブの少年の能力によって一度、トーゼツが死んでしまった時のことであった。
多くの平民が殺され、建物が崩壊。情報が錯綜し、全てが混乱の中、ようやく多くの冒険者と国の兵士が協力して街に大きな被害をもたらしている龍を倒そうとしていた所であった。
しかし、これほどの強力で恐ろしい魔獣は計画を立てて倒すのがセオリーだ。
計画なしで、単独で倒そうものならそれは四大聖ぐらいでなければ無理だろう。いいや、完全に不可能とは言わない。だが、常識の範疇では考えられない。
もし団体で戦うとしても、きっと数十年、一緒に戦ってきたような熟練の冒険者パーティぐらいでなければ事前の準備と計画なしで討伐はなかなかに難しい。
そんな中、まだ街に多くの人が残っている。一体、何が起こり、この首都全体はどのようになっているのか。あの龍を抑えようと戦い、誰が生きて、誰が死んでしまっているのか。全ての情報が錯綜してしまっているこの中で、連携を取れた行動など誰が出来るだろうか。
それでも、一刻も早くこの騒動を止めるために多くの戦士があの龍に向かって戦いを挑んでいく。
「はァァァァァーーーーー!!」
それは、一人の剣士。
味方の魔術師のバフによって、身体能力が著しく跳ね上がり、その脚力で空を飛ぶ龍の地点へと到達。そのまま戦士は刃に魔力を送り、唱える。
その時、龍の全身についている目が剣士を見る。
そこには一切、怒り、憎しみ、敵意と言ったものはなかった。攻撃しようとしている剣士は剣を振り上げているのにも関わらず、だ。
そして目のようにあちこちに身体にある口は、ニタァ、と不気味に嗤っていた。
その異形のものに見られているという恐怖で身体が硬くなり、思考が停止するが、すぐさま冷静さを取り戻し、ようやく詠唱を開始する。
「上級剣術〈焔斬〉!」
魔力は炎へと変換されると、その剣士は真っ赤に燃える刃で強く斬りかかる。
熱で皮膚を裂き、刃を肉へと通す。そして、勢いよく剣で斬り下げていく。
「どうだッ!」
傷口から黒い液体がこぼれる。
それは、この化け物には血が流れていないということなのか。それとも―
しかし、身体の一部とはいえ、斬り裂けている以上はダメージがあったに違いない。だが——
「なッ!」
傷口から流れ出ていた黒い液体がぶくぶくと沸騰しているかのように泡立ちし始める。そして、どんどん傷口を塞ぐように盛り上がり、五秒も経たないうちに完治していた。
そして
「ギャぁあああああああぁぁぁぁぁァァ!!」
その奇妙で気味の悪い叫び声と共に、口を大きく開けて剣士を丸呑みしようとする。
空中で体勢を整うことが出来ない。防ごうにも振り下ろした剣を持ち上げる時間と余裕はない。
地上には仲間がいる。だが、助けが来るとは思えない。
終わった……そのよう思ったその瞬間だった。
「中級魔術〈光縛〉!」
開けていた口をバグン!と無理やり閉じさせるように絡みつく光の触手が出現し、なんとか剣士は助かり、そのまま自由落下で地上へと落ちていく。




