狂気 24
トーゼツは脳を必死に思考させ、今、脳の中の情報を整理していく。
自分の知っている絶大レベルの術の中で、この状況に相応しいものは?相手を必ず殺せるような技は?
そうして、クロスボウに仕込まれた矢へとドンドン魔力を送り込みながら、術を選択。発動させようと口を開く。その瞬間であった。頭がズキンッ!と軋んだかのような痛みが奔り去り、鼻からツー、と血が流れ出る。
だが、発動には問題はない。
この程度の無茶、気にする必要もない。
「行くぞ、耐えられるか?」
そのトーゼツの煽りに「逆にやってみせろよ!」という言葉を吐き捨てるローブの少年。
そうして、トーゼツは絶大弓術の詠唱を行う。
『凍りついたように、輪郭を置き去りにする。それは最果てにて逆光と降る。連結して解け。〈アイ・ノウ〉』
矢は青白く発光し始め、突風を生み出し、空気が荒れる。
ローブの少年の肌で感じるその突風は冷たく、眩しく、そして凄まじいものであった。
「こっちも行くぞ!『其れは絵画のような幻想。生命全てが抱える夢。そして、其処から生まれ落ちるは死!〈インファントゥーン・ファンタジー〉!」
少年は鎌を大きく振り下ろし、刃に纏われていた魔力は光をも切り裂くような漆黒の斬撃と成ってトーゼツに向かって飛んでいく。
その動きに合わせたかのように、トーゼツも引き金を引き、その莫大な青白く、冷たいエネルギーとなって矢は勢いよく射出される。
その二つの力は、二人のちょうど真ん中で強い衝撃を生みながらも激しくぶつかり合う!
漆黒の斬撃は斬り破ろうとしている。それに対し、青白い一筋の光は、その斬撃すらも突き破らんとするほどの力で突き進もうとしている。
そして、終わりの瞬間がやってくる。
パァン!と何かがはじける音と、それに合わせて凄まじい量の魔力が辺りに散っていく。
それは、ぶつかっていた二つの魔力。
「ちぃッ、威力が互角で、どっちも消滅しちまったか!?」
「ははッ!なんとかなったようだねェ!」
トーゼツは悔しさの言葉を、ローブの少年は相変わらず嗤っていた。
このままでは終われない。トーゼツはもう一度、クロスボウに魔力を送り、術を詠唱しようとするが
「ッァ!!」
鼻から血が出ているというのに、今度は目と口からも勢いよく赤い体液が流れ出始める。
「脳が凄まじい情報量に耐えきれなかったようだね!全く、出来ないくせに絶大レベルの術を放った代償と言った所―」
その時だった。
ローブの少年の膝は折れ、身体はまるで支えている骨が全部抜けてしまったかのように崩れ落ちる。
「おいおい、テメェ自身も人の事言えないようだがァ!?」
「クカっ、カカカッ!自分でも気づかないほどのダメージを負っていたか?全く、最後の最後で俺の認識を一気に塗り替えやがって。これじゃあ神々に認められるのも納得がいくね」
お互い、睨み合う。
攻撃しようにも体が動かない。仲間を呼ぼうにも、叫ぶ余力すら身体に残っていない。
魔力も互いにすっからかん。
さて、どうするか。
二人はそのように思考している最中
「ギぃぃぃぃぃぃぁアアアアァァァァああああああアアああアアあア!!!」
周囲に響く化け物の叫びであった。
「おっと、アレも討伐されるか?それは予定外だな」
そうして、ローブの少年は空を見上げる。
その視線の先には叫びを上げた正体、龍の姿をした化け物であった。




