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狂気 22

 その一撃は不思議と苦痛はなかった。


 トーゼツの身体を大鎌の刃は突き進む。しかし、血は噴き出ない。肉も切り裂かれたような感覚はない。それはまるで、透明な何かがすり抜けているような感覚であった。


 そして気づけば


 「あァ?」


 トーゼツの意識は遠のき、身体の筋肉全てが弛緩し、その場に倒れ込んでしまう。


 (何が…起こって……?)


 やはり、痛みはない。


 しかし、この世界から消えていく虚しさで心が侵されていく。


 どんどん身体の感覚が曖昧になり、自分の存在さえも認識できくなる。そして、とうとうトーゼツの意識はこの世界から完全に消えてしまう。


 「やっぱり大したことなかったな。俺の能力で殺せちまうんだからね」


 動く気配の無いトーゼツを見下ろすローブの少年。


 あんなに高らかに大きな声を上げて嗤っていたのが嘘だったかのように、つまらなそうな表情へと変化していた。それは強く何かを期待していたがゆえの、失望であった。


 「神々から愛され、対等とみなされた人間がこの程度だったなんて。もう少し面白くなりそうだと思っていたんだけどな。まっ、それはそれで計画の柱になりそうな奴はもう一人いるし、ここで死んでもらって問題はないか」


 そのようにつぶやいて、その場から立ち去ろうとしていた。


 その時であった。


 ドクン。


 何かが鼓動している。


 ドクン。


 もう一度、鼓動する。


 ドクン、ドクン……ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクンドクンドクンドクン!!


 それは次第に強く、ハッキリと確かな音を刻み始める。


 そして―


 「はァ!」


 そこに倒れていた者の呼吸が蘇る。


 「まだ、だ!」


 死んでいた肉体に多大な量の魔力が放出されていく。


 「マジか!?」


 ローブの少年は目を見開き、驚愕をする。


 自分の能力は絶対だ。必ず受けた者は死ぬ。


 トーゼツもこの攻撃を真正面から受けたはずだ!


 なのに……なのに!


 「どうして立ち上がれる?」


 彼のつまらなそうな表情は、一気に喜々に満ち始める。


 (確実に死んでいた。俺の能力は『あらゆる生物に死を迎えさせる』だ。そして、能力を具現化させたこの鎌で貫いた生命はなんであれ死ぬ。しかも、物理的な死ではない。精神をこの物理世界に干渉させるために存在している『魂』を刈り取るんだ。回復系の魔術であってもこの力からは逃れられないはずだ。だが、どうやって生き延びた!?)


 もしかして、まさか!


 ローブの少年の頭の中に一つ、考えが生まれ出る。


 もしも、そうであれば―


 「おいおい、最強か?お前の能力……」


 今ならもう一度、試せるはずだ。


 まだトーゼツは完全に態勢を立て直し切れていない。意識も復活はしているがまだ曖昧な状態だ。


 であれば、攻撃を受け止めることも、避けることも出来ないだろう。


 ローブの少年は問答無用で、その鎌を大きく振り上げると今一度、トーゼツの身体をその鎌で貫くのであった。

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