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狂気 20

 ローブの少年はクロスボウで狙いを定めるトーゼツとの距離を取らず、武器だけを構え、まずは威力を確かめることを優先することを決める。


 もし可能ならば鎌ではじく、もしくは防ぐ。もし放たれた矢の威力が予想以上のものであるならば避けるなり躱すなりすれば良い。


 距離は約七十メートル。この程度、距離が空いていれば充分だ。一番重要なのは、あのクロスボウがどれほどの危険なものなのか、ということ。それさえ確認できれば問題はない。


 (接近せずに構える、か)


 また、その様子を見ていたトーゼツはさらに魔力を込め、ここで一気にダメージを与えてやる!と思い、術を唱え始める。


 「上級弓術」


 生成された矢が真っ赤に染む。そして、メラメラと綺麗に揺らぎ始める。


 (あれは炎か?)


 すぐにローブの少年は見て理解する。だが、構えは変わらない。


 「まだ、依然として問題はないな」


 「正面から受けきれるって思ってんのかよ」


 その姿にトーゼツは少し苛立ちを覚えながら、絶対に一撃、喰らわせてやる!と引き金へと指をかけ、強く、そして思いっきり引く!


 「〈絶炎一矢ぜつえんいっし〉!!!!」


 その一撃は、ローブの少年では捉えきれなかった。


 しかし、一撃を受け止めることは出来た。しかし、その動きはまさに本能と呼ぶべきもの。避ける余裕はない、大鎌で受け止めないと死ぬという本能によって身体が突き動かされた結果であった。


 「ッ!?」


 彼自身、一撃を受け止めたという事実を脳で認識したのは数秒後であった。


 ゆえに激しく驚いていた。


 だが、最も同様していたのはその威力であった。


 「な、んだ……これは、ァぁぁぁ!!」


 受け止められたからと言って、生き残るかどうかは別問題。


 鎌を通して伝わる力は、腕の骨にヒビを入れる。筋肉の繊維もぶちぶち、と一部千切れていっているのが痛みとして脳に伝わっていく。


 どれだけ脚に力を入れ、踏ん張っても身体がどんどん下がっていく。


 また、矢にまとわりつく赤い炎の熱が空気を通して皮膚を焼いていく。


 威力も、速度も、異常すぎる……!!


 (受け止め…切れない。逸らす余裕も、無い!!)


 「お、おォ!」


 彼は肉体内部から一気に練り上げていた魔力を放出。肉体に纏わせ、身体能力を底上げすると同時に、纏った魔力で身を守ろうとする。


 そして―


 「はぁ、はぁ!!」


 地面は熱で黒く焦げ、空気はサウナのように熱くなっている。そして、その地獄のような空間で血まみれになって立っている一つの影。


 鎌は黒くなった地面に落ち、腕はだらり、と血を流しながら垂れ下がっている。


 顔もやけどで痛々しいものになっていた。


 しかし、彼の表情は


 「ひひッ」


 嗤っていた。


 「あ、あはは、ははははははははッ!」


 彼は狂い、嗤う。


 嗤う。


 ひたすらに嗤う。

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