狂気 18
イルゼはアナーヒターの言葉に「ははッ!」と笑い飛ばしながら、立ち上がり、答える。
「馬鹿じゃねぇのか、私たちの戦いはここからだろ!」
右拳と左拳を勢いよくぶつけ合わせ、ギラり、とその犬歯を見せながら彼女は勢いよく地面を駆けてアナーヒターへと近づいていく。
「そうですか、まだ戦うというのなら!殺すまでやってやらァ!」
アナーヒターは杖に魔力を込める。すると、杖先から青い雫が生まれ、地面に滴り落ちる。その瞬間、水を生きた蛇のように動き、杖に絡みつき始める。
(なんだ、魔術か?)
そのようにイルゼは判断するが、同時に何かが違うということも理解していた。
魔術ではあるのは確かなのだろう。だが、詠唱はしていない。魔法陣も出現していない。だが魔力は明らかに消費をしている。となると―
(杖に付与された魔術か!?)
魔術師の使う杖はただの杖ではない。大抵は使用者の魔力を増幅させる、強化させると言った術を事前に付与している場合が多い。
しかし、優秀な魔術師ほど自分で杖は制作しており、自分なりの術を付与している者は少なくない。また、優秀であればあるほど、付与している数の術は多くなる。
きっと、今、アナーヒターが発動させている術も杖に事前に付与させていた術の一つに過ぎないのだろう。そのうえ、見ただけでは効果は不明だ。
(魔力の消費量から絶大レベルの術……か?いや、上級魔術を二つ、三つかけ合わせて発動させている場合も考えらるか……。まっ、どちらにせよ、危険な匂いがするのは変わらないな)
杖にまとわりつく水は、ただ浮いているわけではない。そこには流れが発生しており、まさに激流のような状態であった。そんな杖をアナーヒターはくるくると回し、棒術の動きを見せる。
これまで魔術での遠距離、中距離戦闘を維持していたアナーヒターがここで近距離を選んできた。きっと、本気でつぶしにかかってきている。そう捉えても良いだろう。
(それに、あの少年が見当たらない。何処に行ったのか?それとも、潜んでまた〈光縛〉で私を捕縛する機会を窺っているのか)
考えることも、意識しておかないといけないことも、やることすることが多い。
これは戦闘中の動きも鈍くなってしまう要因に成りえる。
アナーヒターの術の効果も不明。
明らかに状況が不利になってきている。
だが―
「問題ないね!」
彼女は両手の指を伸ばし、手刀の形を取り、戦闘の態勢を取る。
「死ぬかもしれない戦いこそがッ、私の求めていたものだッ!!」
そうしているイルゼは駆けていく。
水を操るアナーヒターと、拳を魔力で纏わせたイルゼの最終戦が始まる!




