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手合わせ 2

 約二時間後。


 メユーとトーゼツ、そして魔術師の少年、エルドは国境外に出て魔物狩りへと出ていた。


 「ひぃ、ひぃ!!」


 エルドは物凄いスピードで大地を駆けながら、それでも的確に狼型の魔獣を一刀両断していく。それに合わせてトーゼツの剣や、トーゼツ自身に強化魔法、いわゆるバフをかけていく。


 だが、トーゼツに必要な術を即座に選び、発動させるのにエルドはとても苦労していた。しかも魔術をかける相手であるトーゼツの速さは凄まじいものだ。そんなトーゼツに狙いを定めて術をかけなければならない。それとてもキツイもので、立って術を発動させるだけで全く動いていないエルドが一番汗をかいていた。


 また、メユーはそんなトーゼツの動きに完璧に合わせて矢を放っていた。トーゼツの剣の攻撃範囲外にいるかつ、トーゼツに接近している個体の頭に確実に矢を当て、殺していく。


 「やっぱ続々と魔物の数が増えているなぁ。しかも、こんなに国境付近でだ。やはり、こんなにも厄災の影響は次第に強くなっているな」


 ある程度、視界にいた魔獣を斬り殺したトーゼツは立ち止まり、一旦、呼吸を整え始める。


 「そうねぇ。しかも、大半の冒険者が街のお祭り状態だから、それで遊びまくってる。さらには有能な冒険者ほど、もうこの国から立ち去っているしね」


 「はぁ……はぁ……立ち去るってどういうことです?」


 魔力を増幅させるうえに、緻密な魔力操作も可能にさせる魔術師の杖で身体を支えながら、ゆっくりと二人に近づいて質問するエルドであった。


 「アンタはこの街出身の冒険者なのか?」


 「ええ、そうですね」


 冒険者は滞在している街でいくつか冒険者の依頼を受け、お金を貯めるとまた旅立つ。そのようにする者は珍しくはない。だが、それでも生まれ育った街から出ない冒険者の方が多い。


 そのような冒険者は、生まれ育った街のことしか知らないため、今、世界がどのような状況なのか知らないことも多い。トーゼツ達が現在、滞在している街のギルドなんかはラジオがあったがそれはここがセイヘンの中でも首都に次いで栄えている都市だからだ。


 ほか、より力を持っていない小国などにはラジオなんてものはない。国営放送だってされていないだろう。


 新聞なども一応、存在しているがそういうのは国内の情報ぐらいしか載っていない。世界の動向なんてものを掴めるほどのものではない。


 「俺やメユーみたいないろんな場所に行っているような奴は、自分よりも強い冒険者に何度も出あって来ただろうし、驚くような戦いを自分の目や耳で聞いてきている。だからこそ、優秀な冒険者であればあるほどあの剣聖が厄災に勝てるとは思えないし、足止めでも出来ると考えている者はいないだろうな」


 そのように説明しながら、トーゼツは剣に付着した血や油などを落とすために、ブン!と思いっきり剣を振り、そして布で丁寧に拭き始める。


 「そんなにあの剣聖が弱いって言う事ですか?」


 「そうじゃないわ」


 トーゼツが言う前に、メユーが答える。


 「災厄の方が強すぎるのよ。彼女自体は優秀な戦士よ。剣聖の職を持つのにふさわしい才能と実力、そして経験を持っているわ。それでもなお、勝てないのよ」


 「そう、だからこそ、逃げるんだ。この街に残っていたら死ぬだけだからな」


 メユーの言葉を捕捉するトーゼツ。


 それらを聞いたうえで、エルドは一つの疑問について尋ねる。


 「では、何故アナタたちは逃げないのですか?トーゼツさんとメユーさんだって、あの剣聖が勝てるなんて一切思ってないんでしょ?だったら、どうして—」


 その言葉に、二人は即答する。


 「「守りたいから」」


 「……えっ?」


 エルドは驚き、言葉が出なくなる。


 二人のコンビネーションを見ていれば分かる。トーゼツとメユーは冒険者としてタッグを組んで長い仲なのだろう。それぐらいは雰囲気と、先ほどの戦いのお互いの動きを理解しているような戦い方に説明ができない。


 しかし、同時に迷うことなくエルドの質問に返答出来ることにはもちろん、あの厄災に対して守るという返答が出ること自体に驚きを隠せない。


 「ま、守る…ですか……?」


 エルドはこの街で生まれ育ったから分かる。トーゼツとメユーはこの街の人間ではない。旅をして生活をしている冒険者であるということを。だからこそ、この街を守る義理というか、意味はないはずだ。


 それに、厄災に勝てると自分の力を信じている戦士なんていない。


 「そうだ。俺が冒険者になった理由は多くの人を助けたいからだ。それは出来る、出来ないの話じゃない。道理もないかもしれない。だけど俺がやりたいことであり、俺の精神が多くを守れと体を突き動かしてんだ。だから、もしあの剣聖がやられて、俺も死ぬかもしれなくても、あの厄災に立ち向かうんだ」


 理屈では説明できない、それでいて感情でもない。彼の精神の奥底から溢れ出るその意思と覚悟は誰であろうと止めることはなく、彼自身でさえ止めることの出来ない躍動なのだと、エルドは悟る。


 まさに、英雄の心を持った男であるとも、思うのであった。


 「そんな風に考えていたのね」


 ざっざっざっ、と歩いてこちらへ近づいてくる一つの足音。


 三人はそちらの方を見ると、先ほどまで街中の行進にいたあの剣聖であるミトラがいるではないか。


 「け、…けけ、剣聖!?」


 エルドは何故、ここに彼女が現れるのか。そもそも、今まで行進の中にいたではないか、と驚きの声をあげる。もちろん、二人も同様に目を見開き、驚いていた。


 「アナタたちが国境の外へ行こうとしているのが見えてね。それで、行進が終わってすぐに見に行ったら、案の定、ここで魔物狩りをしていたのね」


 「まぁな。みんな、剣聖が来て喜んでいるが、厄災の影響は強くなっていくばかりだ。こうして、人の気配に感知して街に向かってくる魔物は始末しておかないといけないだろ?」


 「そうね…その通りだわ。所で君、厄災と戦うとか、聞こえていたけど。ああ、説明は要らないわ。一部始終、影で聞かせてもらっていたから」


 他人の会話を盗み聞くなんて、かなり趣味の悪いやつだな、なんて考えたがトーゼツはその考えをすぐに頭の片隅へと追いやって忘れることにする。


 「君は無職だってことも聞いたけど……まさかそんな人間がいるとはね。神々からの祝福が与えられないなんて…。でも、人を助けたいのならば、冒険者である必要はないないかい?」


 彼女は自分の疑問をトーゼツへと問う。

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