狂気 14
イルゼはすぐさま光の拘束を解こうと、身体に魔力を纏わせ、全身に力を入れる。すると、一つ、また一つと光の触手は千切れていくのだがすぐさま新たな光が生成。彼女の補足をし直す。
「ちぃッ、うっとうしいなァ!」
この光の束縛から脱出するには全部を一斉に、同時に破壊するのが必要のようだ。不可能ではないが、少しばかり時間がかかるし、面倒である。
イルゼがそのように手こずっている最中、この術の発動者が現れる。
「ふぅ、これで少しは助けになったかな?」
魔術師の杖を持ち、アナーヒターに近づく一つの影。それは―
「エルド!アンタ、無事だったのね!」
この騒ぎの中、すぐに戦闘になり、トーゼツとも離されて戦っていたため、意識の中にエルドのことはもうすっかりなくなってしまっていた。だが、今のところ怪我もなければ、戦闘可能なほどには準備も万端。
戦いについていけるとは思えないが、心強いのには変わりない。
「じゃ、このまま三十分ぐらい拘束しといてくれる?私はトーゼツの所に行かなくちゃいけないから!」
そう言って、走ってその場から消えようとするアナーヒターの首根っこをすぐにつかみ、駄々をこねる子供のような態度で彼女を止めようとするエルド。
「ちょちょちょっっと!俺が一人で相手出来るような奴じゃないですよ!?」
エルドも途中からしかイルゼとアナーヒターの戦闘は見ていない。しかし、それだけでも相手が自分ではどうしようもないほどの力を持っているのは明白だ。さらに―
「っというか、術聖だったんですか!?」
「あっ、それは…そう……だけど、とりあえず話はあとで、でぇ!!」
「無理やり引きはがそうとしないでください!!」
しがみつくエルドの顔を掴み、力づくで自分から離そうとするがエルドも必死に彼女にしがみつき、何処かへ行ってしまわないようにする。
「はぁ、私をそっちのけでイチャイチャされると困るなぁ」
どうやら、こうしている間に拘束を解いてしまったようだ。イルゼは自分を捕縛していた光の触手を両手でつかみ、引きちぎり、投げ捨てる。
数分間とはいえ、身体の自由が無かったことにとても苛立ちでも感じていたのか。肩に指、全身をボキボキと鳴らしながらこちらに距離を詰めてくる。
「さぁ、続きといこうじゃないか。そっちは二人でも構わんぜ?だが、どっかへ行くことはさすがに認めんぜェ。ようやく身体があったまったってきた所だしなァ!」
イルゼはこれまでよりも速く、見えないスピードで自分を束縛していたエルドに向かって突撃する。そして、拳を振り上げ、殴りかかる。
「わわッ!!」
彼はそれを見事に避ける。
もう一度、彼女は拳をふるう。
しかし、それも避ける。
何度も、何度も、何度も!拳を打ち込むのだが、全て雑な動きで避けきってしまう。
「まじか!?」
まだまだ成長途中で、経験の浅い彼にはその動きは見えないはずだ。しかし、避けてしまっている。そのことに彼女はとても驚き、それが面白くて口角が上がり、少し笑ってしまう。
そして実際に彼は見えていない。それに怖くて目を瞑ってしまっている。
では、どうして避けきれているのか。
簡単な話だ。
運が良く、生まれつき勘が鋭いだけである。
どこから、どのように拳が来るのか。無意識で予測し、判断し、そしてひたすら避けるように体を動かしているだけに過ぎない。それで上手く回避しているのだから実に面白い状況なのだ。
それをイルゼも理解している。だから、笑っているのだ。




