狂気 13
しかし、アナーヒターの展開したバリアとイルゼの拳の拮抗状態が終わるのは、案外、早かった。
バキンッ!とガラスの割れる音と共に、拳がバリアを破壊する。
「っしゃ!一枚目!!」
もう少し、あと三十秒ほどバリアが耐えきるだろう。そう思っていたからこそ、まだ二枚、展開しておいたバリアがあってもなお、焦りが生まれるアナーヒターであった。しかし、同時に焦り、悔しむ彼女の顔には少しながらも笑みがあった。
「まさかね、こんな早く、簡単に一枚目を抜かれるとはね。でも―」
その瞬間だった。
「ッ!?」
二枚目のバリアへと向かおうとしていた右拳から、異常な痛みが奔り抜ける。いや、抜けない。何度も、何度も、身体の中でそれは暴れ、反響していく。
(この力は……私の能力!?)
アナーヒターは発動していた魔術〈リベリオン〉。それは防御魔術ではあるが、ただ硬いバリアではない。相手の攻撃の一部を反射させる効果がある。
(自分の力で苦しめッ!!)
まるで、電気のような刺激が体から駆け巡り、消えていかない。
「でもォ、関係ないねェ!!」
イルゼは、すぐさま思考を戻す。というより、それは本能。戦いという意思。それだけで、右拳をもう一度、バリアに向けて放つ。
二枚目のバリアと、右拳が激突する。
さきほどよりも、壊すために浪費した時間は長かった。一枚目は五秒ほどであった。しかし、二枚目は十秒以上もかかってしまう。
タイムは二倍になっている。それは、ちゃんとダメージが反射されているからなのか。それとも―
「ッ!!」
またしても、破壊した直後にその一撃の一部が自分の中に流れ込む。
「あァ、痛ッッッッ!」
限界だった。
イルゼは痛みで仰け反り、歯を食いしばる。
もう、三撃目を繰り出せるほどの余裕はなかった。
それでもなお、彼女は理解していた。このままでは反撃を喰らってしまう、と。ゆえに、バックステップでとりあえず距離だけは取ろう、と。
しかし、やはり身体の中で暴れ狂う痛みがその思考と動きを鈍らせる。
そして、思考したことを行動に移そうとするころにはもう、遅かった。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
アナーヒターは杖に魔力を纏わせ、勢いよくイルゼに向かって殴りかかる。
ダンダンダン!と三発、肉を殴る音が響く。
顔、首、胸部。
人間の弱い部分を適格に杖で素早く、強く、勢いよく叩く。
「ちぃッ!」
せめて魔力で身を守らなければいけなかった。しかし、それすらも間に合わなかった。
よろり、と態勢は崩れ倒れかける。だが、なんとか持ちこたえ、そのまま素早い動きで後方へ下がり、アナーヒターとの距離を予定通り取ろうとする。
そこにアナーヒターは魔術で追い込みをかけようと杖を構えるのだが
「中級魔術!」
その声はアナーヒターのものではなかった。
「〈光縛〉!」
唱え終えたその瞬間、イルゼを中心にいくつもの光が出現。それは生きた触手のように動き出し、すぐさま彼女の身体にしがみつき、束縛しようとする。




