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狂気 12

 まだ、アナーヒターは戦闘不能レベルの傷を負ったわけではない。しかし、彼女の肉体内部では未だに痛みが反響している。必死に立ち上がろうとしている足の膝も、がくがくと震えている。


 そんな中で、こちらにゆらり、ゆらりと近づくイルゼのことを真っすぐ見ながら思考していた。


 (この攻撃は魔術……ではない。一体、何の力だ?魔力を消費はしているのよね?考えられるのは固有技能。いや、固有技能なのかしら?)


 少し、違うような気がする。


 魔術師の頂点、術聖としてあらゆる魔術を習得し、研究してきた彼女は固有技能に関しても様々な文献、資料を読み、調べてきている。


 しかも、アナーヒターはエルフ。平均では三百年は生きるとされる長寿種族だ。


 彼女は人間の魔術師よりもその研究期間も比べ物にならないほどのものだ。


 しかし―


 (過去に類似する固有技能も見つからないわ。それほど珍しい能力ってこと……もしくは、自分で開発した魔術っていう可能性もあるわね)


 どんなに考えても答えはまとまらない。


 今はとりあえず


 「さっさとねじ伏せてやらなきゃね!」


 杖を構え、再びいくつもの魔法陣を空中に展開。再び魔術を発動させ、攻撃しようと準備する。


 「また同じことの繰り返しか?」


 そのイルゼの言葉には、楽しそうな声が混じってはいた。だが、表情からは呆れたというか、飽きたというか、また同じ手で来るのか。なんてものであった。


 「まぁ、まだまだ遊ばせてくれるなら良いんだけどさッ!」


 一気に右足を踏み込み、距離を縮めてくる。


 一秒、それはイルゼが自分の攻撃が届くまでの範囲内に到達するまでの時間であった。


 速い。


 とにかく、技術も知識もない。筋肉だけで出せる肉体スピードではない。


 「ははッ!魔術を発動させる暇もないかな?」


 また、同じ動き。同じパターン。


 ボンッ!と拳が素早くアナーヒターに向かって放たれる。


 「絶大魔術」


 彼女は冷静に、たんたんと詠唱を始める。


 「〈リベリオン〉」


 ドーム型のバリアがアナーヒターを中心に展開される。しかも一枚だけではない。その強固なバリアが三重になって展開されている。


 「一度の詠唱で絶大レベルの魔術を三度展開!?」


 それはもはや、才能。


 常人であれば、脳のリソースが足りず、廃人となるか。もしくは脳の思考に耐えきれず、頭が沸騰し始めて身体中から血液噴射し始めて爆散してもおかしくはないはず。


 しかし、それをやってのけるのは術聖だからなのか。それとも、アナーヒターがそれほどの魔術師としての頂点に君臨しているからなのか。


 「でも、関係ないねッ!!」


 しかし、イルゼの拳も止まらない。


 三つのバリア、その全てを破壊せんと突き進んでいく。


 がぁん!と一枚目のバリアと拳が勢いよく激突する。


 ガチガチガチ、とまるで鍔迫り合いにでもなっているかのような、そんな震える音を周囲に引き立てながらも、それは数秒間、拮抗状態になっていた。

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