狂気 10
トーゼツとローブの少年がぶつかり始めた同時刻、アナーヒターとイルゼの二人の戦闘も激化し始めていた。さらに、メユーとしての弓士ではなく、術聖アナーヒターとして戦っていることから、彼女は本気で戦っていることが窺い知れる。
「ちぃッ!すばしっこいわね!」
アナーヒターは空中にいくつもの魔法陣を展開し、無詠唱で魔術を発動させていく。そして、展開、発動し終えた魔法陣からすぐに消して、新たな魔術を発動させようとする。
魔術師としてこれほどの無駄のなく、それでいてこれほどの攻撃速度、それは異常と言ってもおかしくはないほどのものであった。
だが、それほどの猛攻撃の最中でも全ての攻撃を避け斬るイルゼであった。
「ははははッ!相手になるか?と思っていたけど、さすがは術聖!全部上級魔術だろ?それを無詠唱で、これほどの攻撃速度っていうのは、頭おかしいんじゃないの!?」
(頭おかしいのは、この攻撃を避けながらも話し出すお前だろう!!)
なんて思いながらも、本当に化け物なのはアナーヒターの方である。
というのも、現在、彼女の意識の七割しか戦闘に向いていない。そのうち、一割は今、空を飛び、住民へと襲っているあの奇妙で不気味な龍であった。
(あれがものすごい被害を出してるから、なんとかしなくちゃいけないんだけど!)
だが、それよりも重要なこと。そして、残り二割の意識。
それは、トーゼツであった。
(あの人は私がサポートしてないといけないんだから、はやくトーゼツの所に行かないと!!!)
アナーヒターはトーゼツを決して弱いとは思っていない。強さに関してはかなり信頼している。しかし、心配性というか、なんというか。自分がいないとどうしようもないと思っている所がアナーヒターにはある。それを彼女自身、気づいていないのだが。
「しっかし、避けてばっかりじゃ面白くないし、そろそろ行くとしますか!!!!」
イルゼは猛攻撃を避けるために走っていたが、急にその進路方向を変え、アナーヒターの方へと直進で接近し始める。
「マジか!?」
突然のことで驚いたが、彼女はすぐさま冷静に戻り、そのまま攻撃を続ける。
距離は縮まっている。つまり、見る、動く、避ける、この三つの動作をするまでの時間、距離を短くなっていくため、避けるのは難しくなるはずだ。
しかし、どんどん避けていく。
それは速い思考と動き、というより、本能と体のしなやかさという避け方。
避けられてしまった魔術はボンッ!ボンボンッ!と地面や建物の壁へとぶつかり、熱系の魔術であれば赤い炎となって、冷系の魔術であれば氷砕け、単なる魔力の塊であれば単純なエネルギーとなって散り、消滅していく。
そうしていると、もうイルゼの攻撃が入る距離内にまでやってきていた。
「到達したよォ!!!!!」
イルゼは肺に酸素を送り、息を止め、腕に力を入れると魔力を込めた右手でアナーヒターへと全力の一撃をストレートで放つ。
その真っすぐで、力強い拳はとても危険で鋭い一撃であった。




