狂気 9
ローブの男は、槍と鎌がぶつかった反動でノックバックし、大きな隙を見せてしまう。
あれほど強く、素早く、勢いよくデカい鎌を振り回していたのだ。何かにぶつかれば、耐えきれないほどの反動が襲い掛かってくるのは明白だ。
トーゼツは急いで防御から攻撃へと意識と思考を切り替える。
「中級槍術〈一点集中〉!」
足に力を入れ、一気に踏み込み、ノックバックでがら空きになった腹部に目掛けて鋭い突きを入れる。
しかし、ローブの男は体全身を守るように魔力で覆い、その一撃を防ぐ。
「ちぃッ!守られたか!!」
「ははッ!良い一撃だねぇ!!!」
トーゼツは悔しがり、ローブの男は嗤う。ものの、魔力で体を覆っただけでは完全に防ぐことは出来なかったようだ。彼は後方へと吹っ飛び、壁を壊し、宿屋の廊下に出ると廊下の壁すらもぶち抜き、建物の外へと出ていき、それでもなお吹っ飛ばされ続ける。
その後も、石畳の舗装された道路に叩きつけられ、まるでボールのようにバウンドする。が、その勢いを利用して高く自分から飛び上がり、隣の建物の屋根へと登る。
トーゼツはさらに追撃するために、ぶち破れた箇所から顔を出し、ローブの男が何処にいるのかを確認し、勢いよく宿屋から飛び出る。
「いやぁ、油断したね」
きっと、自分の意志ではない。吹っ飛ばされた衝撃によるものだろう。ローブの男が深くかぶっていたフードが外れ、その素顔が露わになる。
そこにいたのは、黒髪の男……背丈や顔などで言えば青年のものだ。だが、雰囲気、口調、声色だけで判断するならトーゼツと同じ歳、十七か、もしくは十八ほどの歳の少年のようにも感じる。
「それは神代の遺物か?ったく、良い物使ってるねぇ」
一撃喰らって、彼はあの異質さを理解する。
当初はトーゼツの魔力が槍に纏われていると思っていた。本来はそのはずだ。剣士にしろ、槍士にしろ、弓士などは自分の武器に魔力を纏わせることで刃の斬れ味、威力を上げ、簡単に砕けないように強固なものにする。
だが、これは違う。
トーゼツの魔力ではない。あの槍そのものから魔力が生成されている。魔力は魂から生成されるもの。現代の技術、知識では魔具から魔力を生み出すなど不可能なはずだ。
であれば、あれは神代に製造されたものとしか考えるほかない。
「ああ、そうだよ……」
そのように薄い反応を示すトーゼツ。
今のトーゼツの意識はローブの少年ではなかった。
もともと、トーゼツが目を覚ましたのは外が騒がしかったから。そして、今、部屋の外に出たことでようやく、この街の現状を理解する。
龍の姿をした異形のナニカ。それが人を無作為に襲っている。
「これも…お前らの仕組んだことなのか?」
状況を飲み込み、冷静に、感情がこもっていないような声で質問する。
「さぁね?仮に仕組んだ、と言えば?」
「そうだな、そうなったら―」
ダンッ!と強く地面を蹴り上げ、屋根に居るローブの少年にまで接近する。
「テメェらをぶち殺すだけだ!!!!!」
トーゼツは槍の先端に魔力を集中させ、勢いよく突く。
その一撃はどんなものでも貫いてしまうと思えるほどの威力であった。しかし、ローブの少年はくるり、と鎌を回してその一撃を受け流す。
「ぶち殺すぅ?だったらやってみせろよ!」
無関係の者を殺すことに怒るトーゼツと、ひたすら嗤っているローブの少年は、強くにらみ合い、激しくぶつかり合う!




