狂気 7
事が起こり出して五分後、トーゼツも外が騒がしくなったことに気づいて眠りから覚める。
「一体、なんだ?」
こんな夜中に、眠っている者の耳すらも起こすほどの音。誰かが酒を呑んで酔っている、なんてものでは説明できない騒ぎだ。
部屋の光をつけるために無詠唱、魔法陣なしで低級魔術を発動させ、部屋のランプに火をつけ、一瞬にしてその場を明るくする。
そして、窓を開けて外でも確認しよう。と思い、窓へ近づこうとしたその瞬間―
「なッ!」
突然、何者かの影が現れる。
「おっじゃま~♪」
まるで、友達の家に来たかのような、軽くて楽しそうな声でその影は窓ガラスを蹴り割って、そのままトーゼツも蹴って、勢いよく中に入ってくる。
突然だったが、咄嗟の判断でその蹴りを腕で防ぎ、身を守るトーゼツ。しかし、足の踏ん張りが効かず、そのまま後方へと一メートルほど吹っ飛ばされる。
「ちぃッ!」
ドン、と背中を壁にぶつけ、よろけるトーゼツであった。
「初めまして、トーゼツ・サンキライ」
そこには、黒いローブを身に纏い、深くフードを被った男がいた。
「ああ、初めましてだな。しかし、初めましての挨拶に蹴りを入れるとは良い性格してんな。名前ぐらいは覚えてやるよ。誰だ、テメェは?」
「ふははっ、初めましての相手に失礼な言い方じゃないか?もしかして、君は寝起きは機嫌の悪い性格なのかな?」
そのように片方はイラつきながら、もう片方は楽しそうに冗談を言い合っている中、ドンドン!とドアのノックする音……いや、ノックというより、拳で叩いていると言った方がもう正しいかもしれない。
「ねぇ、起きてる、トーゼツ!?」
その声はメユーのものであった。
ガチャ、ガチャ、とドアノブを回る。どうやら、この部屋に入ろうとしているようだ。だが、用心深いトーゼツはちゃんと部屋のドアを閉めてしまっていた。
「ドア蹴破って入ってくれ!」
「分かったわ!」
そうして、バンッ!と鍵を壊し、ドアを半壊させて中に入るメユー。
外の状況を理解しているのか。その姿弓と矢を持った、戦闘態勢ばっちりの姿であった。
「来たな、術聖アナーヒター!出番だぞ、イルゼ!!!!」
男はそのように叫ぶと、割れた窓からもう一つ、影が飛び出る。
「ッ!!」
咄嗟に魔力を肉体に覆い、身を守る。
しかし、イルゼはそんなの関係なしに彼女の顔を鷲掴みし、壁に向けて叩きつける。そして壁の方が力に耐えきれず、一瞬で粉々になる。
だが、イルゼの力は弱まらない。
どんどん力強く進み、壁を壊し、建物の外へ出る。
そこは、宿屋の前の通りであった。
「いつまで私の顔を掴む気だ?」
指と指の間から覗かせるその目は、真っすぐで、確実に獲物を仕留める獣のような目をしていた。
しかしながら、イルゼは怯えることなく、逆にニヤリ、と楽しそうに笑う。
しかし、次の瞬間には
「グほッ!!」
腹部に強い衝撃が奔り、痛みが体を支配し、悶絶した顔になる。
どうやら膝蹴りを入れたらしく、それがちょうど、みぞおちに入ったようであった。
鷲掴みしていた手が離れ、その場でおなかを両手で支えこむ。
「ぐ、ぐはははッ」
それでもなお、嗤おうとする。
「楽しそうで結構。でも、いつまでその馬鹿笑いが続くかな?」
メユーは矢を引いて、いつでも射てるように準備する。
「早く杖を手に取った方が良いんじゃないか?術聖アナーヒター、私たちはお前の正体を知っている。そのうえで、戦いに来てんだからァ!!!」
イルゼは、拳に魔力を纏わせ、アナーヒターへと突っ込んでいく!




