狂気 6
トーゼツが眠りに就いて二時間ほど経ち、首都であるレーデルも街から零れる灯りは少なくなり、昼間は人が多い通りも、今では暗く、誰もいない。
しかし、一時間に一回ほど、治安維持のために兵士の巡回がある。そして兵士が足元を照らす用に持っているランタンなどが街のあちこちから見える。
そんな兵士たちに見つからないように、しかし堂々と歩く二つの影があった。
「よし、言ったね。じゃあ、進もうか」
路地から顔を出し、大通りへと現れる二つの影。
ローブに身を包み、フードをしているため、何者なのか、すぐに判別は出来ない。また、夜中ということもあり、目を凝らさないとそこに二人の者がいるということも気づかないだろう。
巡回の兵士もいなくなり、コツ、コツ、コツと二つの歩く音だけが街中に響く。
そんな静かな世で、片方の男が話し出す。
「まったく、もともと俺一人の計画だったのに、どうしてこっちに来たんだい、イルゼ?」
イルゼと呼ばれた女は、少し楽しそうに答える。
「さすがの私も興味があるんだよ、トーゼツ・サンキライって奴にはさ。だって、神に対等と認められた戦士だ。しかも、数十年探してきたのに見つからなかった。でも、刃の厄災討伐でようやく尻尾を掴めた。ここは少し遊びたくなるのが狂った者としての性ってやつじゃない?」
「はははははははッ、そうだな。そうだよね。でも、今回、君に出番はないかな?今日は俺と彼、二人っきりで遊ばせてくれよ」
そう言って、彼は懐から一つのフラスコを取り出す。
「それは?」
「狂気から生み出した新たな魔獣さ。イルゼ、君にはあの術聖の相手をしてもらう。そして、街にはコイツに暴れさせて貰う」
フラスコの中では、ぐるぐると何かが渦巻いている。漆黒で、不透明な、ナニカ。
「まっ、しょうがないか。私があとからお前のプランに乗っかてるからな。ここは甘んじて、術聖相手をしてやるとするよ」
「ありがとう。さて、話している間に来たね」
二人は立ち止まり、周囲を見渡す。
「ここがレーデルの中心だ、それじゃあ始めるとするか」
彼は、手を緩め、フラスコを手から離す。
「今宵は誰もかれもが大忙し。楽しく最悪な時間の始まりだ」
パリン、とガラスの割れる音。
それと同時に、フラスコの中から飛び出す黒いナニカ。
それは真っすぐ上空へと向かって伸び、どんどん巨大になっていく。
それは、一匹の龍。
しかし、本来であれば鱗で覆われ、足は長さに合わせ何本もあり、鼻からは二本の髭が伸びているのが龍の姿であり、皆が想像する形であろう。
しかし、それが依然にも黒く、体のあちこちには、数えきれないほどのギョロリとした目と、ニタニタと声にもならない嗤いをする口があった。
そして、それは空中を飛び始め、突如にして叫び出す。
「ンぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
それは、赤子のような叫び。
しかし、狂気にあふれ、聞いた者を畏怖させるほどに恐ろしかった。
なんだ、なんだ、と寝ていた者は起き窓から外を見る。
「なん……だ、あれは…」
龍だ……だが、異形でもあった。
そんな魔獣とも言い難い姿のナニカを見て、窓から見上げた誰かがつぶやく。
つぶやいてしまった。
ぎょろり、とすべての目がつぶやいた者を見る。
「……ぁ」
カタカタ、と手が震えた手で急いで窓を閉め、そこから逃げようとする。
だが、遅かった。
それは、勢いよく突進し、壁を壊し、大きな口を開けてその者を捕食しようとする。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
その龍の姿をした化け物は、次から次へと、建物を破壊しながら人を襲っていく。
「さて、始まったな。それじゃあ、俺たちも動くとしよう!!」
その様子を見た二人もまた、動き出す。




