狂気 5
「えええええええええええぇぇぇぇぇええ!!!」
「しィ!声がでかい!!」
エルドの頭を叩き、彼の驚く叫び声を止めようとするトーゼツ。
そこは、レーデルの中にある宿屋であった。
レーデルがこの国の首都だから、というのもあるのかもしれない。だが、商人や旅人の行き来の多いため、この街には宿泊施設が多く、貴族が泊まるような高級宿屋も存在している。まぁ、一般冒険者であるトーゼツとメユーには関係の無い話なのだが。
とにかく、普通の街よりも泊まれる場所が多かったために泊まるための宿屋を見つけるのにはさほど苦労することはなかった。それに、先にこの街へ訪れていたエルドに宿屋まで案内してもらったというのもすぐ見つかった要因の一つと言える。
「すっ、すいません……」
叩かれた箇所を手でさすり、痛みを和らげるエルド。
「でっ、でも!!村の者全員殺されたって、かなりの事件じゃないですか!?驚かずにはいられないですよ!!それに、犯人は単独で、この街に居る可能性が高いんですよね!これをギルドとか、国に報告しないといけないんじゃないんですか!?」
彼の言うことは真っ当である。
小さな村だっだとはいえ、人が住む場所を国が把握、管轄していないとは考えられない。それに、トーゼツ達だけで片付けられる事件ではなくなっているかもしれない。
魔獣で村が壊滅、ならばまだ良いかもしれない。いわゆる避けようのない災害であり、悲しく、嫌な話ではあるがしょうがないとも言えなくはない。
だが、今回は故意であるのが明白で、快楽殺人鬼よりもたちが悪い。だからこそ、ちゃんと国で発表し、冒険者や国の兵士で犯人の捜索。そして捕獲を行うのがセオリーであり、一番の解決方法であるはずなのだ。
そして、このことはトーゼツとメユーの二人も理解していた。
だが、いくつかの問題があった。だから、問題を無視して国に報告すべきか、それとも問題があるゆえに報告しないでおくか。天秤にかけ、考えた。
その結果は―
「駄目だ、とりあえず今はな」
「どうして!?」
「相手の居所は不明、何者かも分からない。だけど、目的だけはハッキリしているんだ」
「目的?」
「それは、俺だ。俺を殺したいのか、戦いたいのか、何か言いたいのか。それは分からないが、俺を中心として相手は動いているのは明白だ。しかも、俺の動向すら理解しているんだからな。だから、あの村に先回りして、皆殺しにしたうえで首都レーデルへと誘ってきたんだ。だから俺は半ば嫌な予想をしていた。もしかしたら今度はレーデルの住民全員が殺されているんじゃないか、って。だが、何の行動も起こしていない様子だったし、街の人に尋ねた結果、街に出没しているわけでもない。まだ俺たちの前にも現れていないしな。だが、何をトリガーに動き出すか、分からないのが問題だ。もし、ギルドや国に報告したことで殺戮が始まる可能性もある。今は、様子見が一番なんだよ」
なるほど、そういうことだったのか。
さっき聞いたばっかりの話だったとはいえ、トーゼツ達のようにここまで冷静に分析、情報を整理し、判断することは出来なかっただろう。
「では、どうするんですか?」
「とりあえず、今日は休む。明日も街で聞き込みながら様子見だ」
そうして、その場を解散し、エルドとメユーの二人はそれぞれの借りた部屋へと戻っていく。トーゼツはそのままベッドへと潜り込み、寝ることにする。




