崩壊 8
ウッデルは数秒の間、動きも、思考も止めていた。
……静寂がその場を支配する。
だが、キ゚、ギギィ、と何かが軋む音がその静寂を破る。それと同時に、意識が現実世界へと引き戻されたウッデルはその軋む音の発生源へと視線を送る。
それは、自分が向かっていた場所。村長の私室へと入るためのドアであった。
まるで、誘われているかのように、ドアが勝手に開いたのだ。
彼は、警戒する。
一人、目の前に死人がいる以上、自分の身も危ない。
獣しか相手にしたことはないが、ウッデルは狩人。この小さな村の中で単純な力は自分が最も強いと言っても過言ではないし、常日頃、獣に襲われる可能性があるため護身用の技術は身に着けている。五感なども人一倍、自信があった。
彼はそのままドアの方へと近づき、私室へと入る。
その瞬間―
「おい」
その声は、背後からであった。
声の主の方へと慌てて振り向こうとするが、その時には首に冷たい何かがあった。
「…………!」
それは、大きな刃。
死神を彷彿とさせるような巨大な鎌。その尖った先が彼の首へと向いていた。
また、目の前には倒れている男がいた。
それこそ、この村の村長であった。
「アンタが…殺したのか?」
「それ以外、考えられるのか?」
刃を首へと突きつけている男は、ウッデルの質問を素直に答える。しかし、その声色は嗤っているような、殺したのがとても楽しかったと言っているかのようなものであった。
その瞬間、ウッデルは悟る。
この後ろにいる男は、理由があって村長を殺したのではない。誰かを殺したいという理由から村長を殺したのだという事を。
であれば、自分の未来がどうなってしまうのか。理解してしまうというもの。
「俺も殺すのか?」
「……」
鎌を構えたまま、その言葉に答えない男。
「どうなんだ……?」
答えない。
ただ、時間が過ぎていく。
死が間近であるウッデルの呼吸が荒く、この静かな空間には彼が激しく口を動かし、喉へと酸素を送る音だけが響いていた。
そうして数秒後、それはようやく答える。
「そうだな、殺そうか……って最初は考えていたんだが」
彼は、刃を彼の首から遠ざける。
運が良いのか、奴の気まぐれか。
とにかく、自分は助かったという安堵と、この者は結局誰なんだという気持ちで勢いよく後ろへと振り返るのだが―
「ァッ!!」
ウッデルの目の間には靴底があり、すぐさま頭に強い衝撃が奔る。そのまま彼は二、三メートルほど後方へと蹴り飛ばされる。
「村人は全員、殺してしまったからなぁ。ここは伝言役として君だけを生かしてあげるよ。と言っても、ただ逃がすわけじゃないけどな」
ウッデルは先ほどの蹴りで鼻から血を吹き出し、痛みから両手で顔を覆う。
その最中、その鎌の男はウッデルの顔を片手で鷲掴みする。すると、ウッデルの頭の中に何かが流れ込む。それが何なのか、分からない。しかし、危険で極悪なものであるということだけは本能で理解した。
嫌な感覚が心に巡り、狂気に自我が飲まれていく。
「うんうん、良い感じに狂気が浸透してきたかな。それじゃあ、数日後に現れるトーゼツという冒険者が現れるから、彼にこう伝えておいて。ハルドの首都、レーデルで会おう、ってね!」
そうして、ウッデルの意識はなくなり、現在へと至る。




