崩壊 7
ウッデルは夕焼けでオレンジ色に染まる見慣れた村の中を歩いていく。
景色は、何も変わらない。昨日も、一昨日も見ている村の姿。だが、何か変な感覚があった。
いつもと違うことが起きているような……それが何なのかと言われれば答えられないのだが、とにかくその日はいつもとは違う感覚を覚えていた。
今、思い出しながら考えるとこの違和感の正体は、音であった。
このような辺鄙な村では、夕刻になると全員、家に入り夜の支度をする。村の中でも夜になると、どんな目に合うか分からないため、絶対に暗くなる前には入る。
だから村に人の姿が見えないのは納得出来る。だが、その日は全く生活音などは聞こえなかった。普段であれば、それぞれの家の中から話し声や夕食の容易の音、または足音が聞こえてくるはずだ。だが、何も聞こえてこなかった。それが違和感の原因であり、この時には事が始まっていたと思われる。
だが、この時のウッデルはまだ、何にも気づいていなかった。
そうして違和感の正体に気づかないまま、彼は村長の家の前へと到着していた。
コンコン、と玄関のドアをノックし、呼びかける。
「すいません、狩人のウッデルです。家畜小屋で報告したいことがあります」
しかし、返事はない。
村長には今、十歳ほどの子供が三人おり、この時間帯にはその子供たちが家の中で遊ぶ声が聞こえてくるものだが、やはり家の中からは何も聞こえない。
また、誰かいる気配もなかった。
「……留守?いや、でも今朝は村長の奥さんを見たしな。何処か遠出するとも聞いてないし」
そうして、ドアノブへと手をかける。
すると、鍵がかかっていない。
少しドアを開け、その隙間から「入りますよー!」と声をかけ、中に入る。
やはり、家の中は不気味なほど静かであった。
村長の家には何度か入ったことがあり、家の構造、何処に何の部屋があるのか。ある程度、分かっていた。だからこそ、彼は真っすぐ村長の私室へと向かった。
「本当に誰もいないんですか?」
呼びかけながら、玄関を進み、廊下へ出る。確か、村長の部屋は廊下のちょうど中間あたりにあった部屋のはずだ。そのように過去に招かれた時のことを思い出しながら移動していく。
そして、廊下へ出ると
「ッ!!」
そこには、倒れている一人の少女がいた。
うつ伏せになっているため、顔は見えない。その子の両手は前へと伸びていた。きっと倒れた時、それでも何者かに床を這ってでも逃げようとした結果の姿であるとウッデルは理解する。
まずは手首を触り、脈を確かめる。
「……死んでいる」
ここに死体があること自体、おかしな話である。だがそれよりも、彼はこの子がまず誰なのか。確認しようとする。いいや、確認するまでもなく、彼は分かっていた。
しかし、この子は……と信じられず、まだ別の家の子供の可能性があると思い、恐る恐る顔の方を確認する。
「どう……して…?」
やはり、顔を確認しても結果は同じであった。彼女が本当に村長の三人の子供のうちの一人であると確定したことで、脳が思考停止する。
一体、この家で何が起こったのか?他の者は?奥さんは?村長は?残り二人の子供は……?
整理が追いつかない。




