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崩壊 6

 一分近く経って、ようやくウッデルは大人しくなる。それは冷静になった、と言うよりも体と脳が疲労しきってしまったのようであった。


 「はぁ……はぁ……!」


 顔中から汗が噴き出る。表情も、絶望の表情であった。


 「ようやく収まったか?どうだ、水でも飲むか?」


 水を入れたコップを持って尋ねるトーゼツ。彼は細かく何度も息切れを繰り返しながらも、欲しいという意味を込めて頷く。


 トーゼツはコップを彼の口へと近づけ、丁寧に、ゆっくりと飲ませる。


 暴れたことで火照っていた体は、冷たい水で次第に冷えていく。


 「ふぅ、はぁ…」


 まだ、息切れは続く。だが、会話できるほどには収まってきた。


 「さて、ある程度、落ち着いたところでもう一度、自己紹介から始めた方が良いかな?」


 「……いや、大丈夫だ。アンタが訊きたいことも分かる。この村で何が起こったのか、だろ?その前に聞いておきたい。この村の生き残りは何人だ?」


 「死んだ人間は数えた。が、そもそもこの村に住む者の人数を知らないからな」


 「俺を含めて七十四人だ」


 その言葉を聞いてトーゼツはしばらく無言になる。


 「……」


 そうしてしばらく考えたのち、彼は正直に答える。


 「……生き残ったのは、アンタだけだ」


 その言葉を聞いて、ウッデルもまた、無言になる。


 トーゼツがすぐに答えなかった理由は、彼以外の村民が死んでしまったという酷で、最悪な事実を突きつけるのに抵抗があったからだ。


 だが、ウッデルはすぐに思考を切り替える。


 「そうか……まぁ、そうだよな。あんな死神みたいな奴から生き残れるわけがない」


 「死神?本当にこの村に何があったんだ?説明してくれ」


 「俺も全ては分からない。だから、分かることだけ話す」


 そうして、彼は自分の知る範囲内ですべてを語りだす。



 これは数日前。


 ウッデルはその時、村にはいなかった。


 刃の厄災の活動再開によって狂気に飲まれ、暴れている獣たちの被害に悩まされていた。冒険者を雇えるほどの金はなかった。自分たちで罠を仕掛けたり、狩ることで対処するしかなかった。


 村で数少ない狩人の職を持ったウッデルは、その日も狩りへと出ていた。


 「っかぁ~、今日も疲れたなぁ」


 獣の殺したときに血を浴びてしまい、体が真っ赤に染まっていた。鼻も血の匂いで充満していた。だが、狩人になってもう十年以上。こんなものにはもう慣れてしまっている。


 帰りの道中、仕掛けていた罠の様子を見たり、獣道を確認する。新たなフンや足跡、またネズミなどの小動物を食い荒らしているのを確認すると、その付近に新たな罠を設置。


 そうして自分の仕事をしながら、村へと帰ってくる。


 その時、鶏と豚を育てている村の家畜小屋の様子を見ようと、小屋へ寄るウッデル。しかし、彼がそこで見た光景は―


 「なッ!?」


 村で大事に育てていた動物たちが、全部死んでいた。


 驚き、近づこうとするが、すぐに冷静になる。そして今度は逆に、距離を取り始める。


 (見た感じ、外傷はなく、暴れた形跡もない。何かしらの病気か?くそっ、ただでさえ猪や狼、魔獣の被害で食い物が少ないのに……。というか、こんな非常事態に誰も気づいていないのか?)


 本当に病気であれば、動物たちには近づかない方が良い。そう思い、彼はとりあえずこの事を村長へと報告しに、村長の家へと向かうのであった。

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