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先行き不明 6

 だが、今のミトラは最高峰の魔術師、アナーヒターからの魔術支援を受けている。魔力量も、身体能力も、全て底上げされている。過去最高の状態。


 きっと、あのアナトに劣らない火力を叩き出せるだろう。


 それだけではない。ミトラはトーゼツと出会ってから、色んな相手と戦ってきた。また、この戦争に備えてベスとこれまで以上の鍛錬も行った。


 成長だってしている。


 ふぅ、と息を吐き、魔力を剣に込める。


 これは、ミトラの脳裏の中に最も強く残った技であり、あらゆる術式を用いて再現、編み出した剣術。それでも原点には劣るものの、今のミトラであれば、あるいは──


 「絶大剣術〈エスターブ〉!!」


 剣先から放たれるその漆黒の斬撃は、あっという間に壁を断ち、その奥にいたラツィエルへと到達する。


 「これは……刃の厄災の──」


 防御も、回避も間に合う事なく、正面からもろに〈エスターブ〉を喰らってしまう。


 その一撃は重く、鈍く体全体へ広がっていく。また、体が思うように動かない。それは痛みで動きが遅くなっているだとか、疲労だとか、そんな話ではない。


 実際の〈エスターブ〉をラツィエルは見た事あるわけではない。だが、メイガス・ユニオンにも十五の厄災の収集データがある。その中にあった刃の厄災の奥義とも言えるその技は、狂気と魔力を一気に放出し、相手へ放つモノと書かれていた。


 厄災の持つ特有の狂気は生命であれば魔物でも、獣でも、人でも精神を持つ存在であれば、それを蝕む。そして強い意思を持ったモノ、または狂気に適応した者でなければ、蝕まれたモノ達はどんどん狂気に耐えきれなくなり、自死を選ぶか、発狂してしまう。


 〈エスターブ〉は先ほど述べた通り、魔力と狂気を放った技だ。今のラツィエルの精神はその狂気に侵食され、動きが鈍っているのだろう。しかし──


 (剣聖とはいえ、一介の戦士だ。厄災の狂気をも再現出来るとは思えない……!!)


 もしも、本当に狂気による一撃ならば、それはラツィエルの能力でも完全な対処は不可能だ。この予想外の状況に一気に不安が押しかかる。


 しかし、『再現出来るとは思えない』。ラツィエルの考えは実のところ間違っていない。


 ミトラは狂気を再現出来なかった。また、狂気に関しては未知の部分が多く、あらゆる魔術師達が研究の対象にしている。魔術師を専門としていない彼女がその未知の領域に入れるわけがない。


 だが、彼女は〈エスターブ〉を……それ以外の厄災の攻撃をその身を持って受けてきた。狂気がどのような影響を与えるのか、その感覚を実際に体験してきたからこそ、擬似的に狂気の再現をするだけなら──


 (音や光、痛覚の部分から神経を伝って感覚機能を低下させた!かなり効いてるみたいね。上手く体が動かなくて多少の混乱もある!今のうちに出来る限り叩き込む!!)


 さらにミトラは剣を構え直す。

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