先行き不明 2
そのようにミトラが思考を巡らせている中、前を歩いていたアナーヒターの足が止まる。彼女もまた、アナーヒターに合わせて動きと思考を止める。
一体、どうしたんだろう?と思ったその時、ようやくミトラもまた気づく。
廊下の先から敵意を持った何かがこちらへ来ている。
「どうやら、動ける奴もいるようだな……」
アナーヒターは杖を構え、周囲の水分を集めて水の球体を空中へ作り出す。ミトラも腰の鞘から剣を引き抜き、戦闘態勢を取る。
「おっ、誰か立ってる奴いると思ったらアナタでしたか」
そこに立っていたのは灰色の髪を持った男。ミトラは初対面であったが、かつてメイガス・ユニオンに所属していたアナーヒターはその男をよく知っていた。
「お前はラツィエルか!懐かしいな、学生の頃を思い出すわ!」
「そういば、学生の頃からの付き合いでしたね、先輩。優秀な成績で、あらゆる可能性を抱えていた皆の憧れだったアナタが冒険者へ行ったと聞いた時は驚きましたよ」
二人は敵同士だというのに、まるで数年ぶりにバッタリ道端で会った友達のように会話を続ける。
「私もお前の今の姿見てビックリだよ。戦士希望だったのに、弱かったお前は知識、技術を買われて研究職の道を選んだと思っていたけど……その魔力量からして、お前もようやく強く成れたのか?」
いいや、違う。
アナーヒターの記憶状、ラツィエルには一切、戦士としての才能はなかった。知識面、技術面では確かに光るモノがあった。きっとアナーヒターに並ぶ術師にはなれただろう。しかし、どう足掻いても魔力量は少なく、基本となる肉体が弱すぎた。そもそも、性格的な面でも適正は無かった。
好戦的ではなく、あまり痛いのを嫌がる性格。だというのに戦士を最初は目指していたというのだから、一部の者からは馬鹿にされていたというイメージが彼女にはあった。
しかし今、彼のその姿はアナーヒターを超えている。
あのチャミュエル・ローリィに並んでいる。
であれば、たどり着く答えは一つ……。
「えぇ、アナタの予想通りですよ」
アナーヒターが訊く前に、察したラツィエルが語り出す。
「私はダイモンの実験を以て、この力を得たのです!これこそ、私の求めていた力!未だに誰かを傷つけるのには慣れませんが、これで私の憧れへと近づけました!」
それを聞いていたミトラは侮蔑の目を向けている。その目でダイモンの実験を見たことはない。だが、その情報も彼女は潜入作戦時に知ってしまった。だからこそ、あの実験の被験体として参加したことが信じられなかった。また、アナーヒターの表情は怒りに満ちていると同時に、とても残念そうなモノであった。
「ダイモンの実験がどれだけ残酷なモノか、知っていただろう。どれだけ愚かな実験なのか、理解していただろう。だというのに、あの実験に手を出したのか!?」




