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真の課題 12

 シャルチフ会長は悶え、苦しむアナトへと近づいていく。


 今のアナトにシャルチフ会長に抵抗する余裕はない。それでも、彼女は目の前までやってきたシャルチフへ鋭い目つきで睨みつける。


 それに対し、シャルチフは一切、表情を変えずにアナトを見下す。


 「思い出したか?お前もまた、儂が生み出した成果物(・・・・・・・・・・)だというのを」


 その言葉と共に更に脳への刺激が強くなる。


 そして、彼女の記憶の奥底で、封印していたモノが徐々に現れる。最初はまだぼんやりとしていた。しかし、時間が経つにつれ、解像度も上がっていく。


 そうだ、どうして私はこんな大切な事を忘れていたのだろうか。


 いいや、違う。


 どうして今、忘れたかった記憶が……二度と思い出したくなかった記憶が蘇っていくのだろうか。


 「お前たちダイモンには抵抗された場合を考え、念のため『首輪』をつけてはいたが……ここまでの効力はないはずだが。いいや、キサマの場合、ある種のトラウマとして『首輪』の力が増幅されたな」


 『首輪』の力を使っても、かなり抵抗されると思っていたからこそ、この状況はとても僥倖だ。


 「今、ここで殺しておくのが良いのかもしれないが……神に等しい力を持った被検体をここで殺すのは勿体ない。なにせ、ダイモンの中で唯一、メイガス・ユニオンの真の課題にたどり着いた生物。そう、人類の身から神へと昇華した存在なのだから。四肢を斬り落とし、この戦争が落ち着いたのちに、生きたままじっくり実験体にでもしてやる」


 そういってシャルチフは苦しむアナトに容赦なく魔力を纏わせた杖で殴りつける。



 その様子をローリィは眺める事しか出来なかった。


 彼女も最強であると同時にダイモン。どんなに強くても、シャルチフに正面から歯向かう術はない。だからこそ、どんなに納得しない事でも彼女はそれを黙認していた。せざるを得なかった。


 無論、先ほどシャルチフ自身が述べたように、『首輪』の力は抵抗出来る程度のモノでしかない。それでも、魔術でも、剣術でも……どんな術であっても脳の思考が必要な以上、脳へと負担をかけてくる『首輪』の力は無視出来ない。


 「さて、これで一番の問題を解決したぞ。あとはお前の敵じゃないだろう、ローリィ?」


 ローリィの眼は明らかに納得のいっていないモノであった。アナト同様、敵意の眼。それは恨めしいほど、鋭かった。しかし、シャルチフはローリィの意思など、どうでも良いようだ。


 ただ、自分の望む答えを待つのみ。


 「分かりました。それでも、しばらくは休ませてください」


 「良いだろう、誰でも休息は必要だ。特に、あのアナトとタイマン張った後だしな。数十分程度、体を休ませておけ。だが、休憩が終われば仕事だ」


 そういって、シャルチフ会長はアナトを抱えて城へと戻っていく。


 ローリィはシャルチフに対し、ある程度、憎悪というモノはある。しかし、同時にこの国を支え、エルフという種族を信じるその強さに憧れだってある。


 しかし、それも昔の話。


 「いつまでも頂点で牛耳れると思うな、老害」


 そう吐き捨て、ローリィも休める場所を求めて立ち去る。

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