真の課題 9
明らかにボロボロだったローリィの身体が治癒している。きっとアナトが固有魔術〈アラン・ヒルズ〉に対応し、流動体の生き物にてこずっている間に治癒魔術でゆっくり体を治していたのだろう。しかし、完全復活とまでは行ってないようで、ぽたぽたと口、鼻から血が垂れ落ちている。
それに対し、アナトは無傷である。まだまだローリィは隠し手を持っている可能性はある。が、既に勝敗は決したも同然だ。ここまで戦って、一切、ローリィはアナトにダメージを負わせられなかった。
その時点でローリィがアナトを倒す可能性は……ゼロに近い。
「ふふふっ、私程度じゃあ、アナタには届かないのですか…………」
そのように呟きながらも、ローリィは剣を握る。
「言ってる事とやってる行動が一致してないけどな」
アナトもまた、槍を構えなおす。
頭では分かっている。だが、このまま負けを認めるほど、彼女は諦めの良い者ではない。それにこの戦いはアナトとローリィの戦いではない。メイガス・ユニオンと冒険者連合の戦争だ。ローリィが負けたからと言って、そこで終わりじゃない。
(勝負に負けても、戦いには……勝つ!!)
また、同じ戦士として、アナトも彼女の気持ちを汲み取る。
それに……届きえないと言っていたがアナトからすれば彼女は充分、強い。
あの固有魔術〈アラン・ヒルズ〉。あれはダイモンの力を利用した固有魔術というのもあるのだが、神代すら超えたあの力をアナトでは再現不可能だ。そう、一部の技術面、力量面で言えば彼女はアナトを上回っている。
(同じ一流だから……同じ最強として立っている者だからこそ!)
痛いほど気持ちが分かる。悔しさが伝わる。
……同時に上には上がいる、自分が立つステージよりもさらに上があるのだという事実が嬉しいのだ。
「全力で迎え撃ってやるよ、チャミュエル・ローリィ!!」
アナトは一切、容赦はしない。ローリィがどれほど傷ついていようと、どれほど肉体の限界を迎えていようと……対等の相手として、手加減などはしない。
ローリィは右手で剣を持ち、左手で懐から再び瓶を取り出す。きっと核圧縮するために必要な水素やヘリウムといった軽い元素が気体として入っているのだろう。
(今、使える全ての手を使って必ず──)
ローリィは剣を引きずりながら、力強く前へと進みだす。また、ローリィの動きに合わせるように、同時に周囲へ散っていた流体の生物が一気にアナトへと襲い掛かる。
小さく思考もないその生命体は、しかし溶岩のような熱量と微小の魔力を纏って襲いかかる。魔力を纏う、程度では肉体を守りきれない。だからと言って、襲ってくるたびに、ちまちまとバリアを展開していくのは面倒だ。
アナトは向かってくる全ての生物を慎重に、しかし確実に槍で払い退ける。どろり、と散っていく生物の体の一部がアナトの頬を掠める。じゅッ!と肉の焼ける音と共に、血が流れ始める。それでも怯む事なく、何十匹、何百匹と向かってくる生物を払う。




